2008/10/11

    家庭医認定プログラムで研修中のレジデント

NPO日本家庭医療学会は一会員の声を大切にしてくれます.
各認定プログラムにどれくらいの登録研修医(後期.レジデント)がいるのか公開してください.というお願いを一会員として出しましたら,10/6に対応してくださいました.

学会認定家庭医療後期研修プログラム一覧

登録研修医数によるプログラムの数(9月10日現在)
0名 39プログラム
1名 17プログラム
2名 5プログラム
3名 4プログラム
4名 3プログラム
5名以上10名以下 3プログラム
10 名以上 10プログラム
合計 81プログラム

5-10のところ,10以上の所は正確な数が分からないが,それぞれ最低人数 (5人,10人)としても合計166名の登録後期研修医が研修していることになる.

ただし,毎年8000人の医学生が卒業するうちの3学年24000人に対しては,1%にも満たない.諸外国にはほど遠い.

でもここからがスタート.
学会認定のプログラムがあること,そこに所属し,研修を終える医師がいることの意義は恐らく多くの人(家庭医療業界にいる人も含め)が思っている以上にずっと大きい.

これまでは「家庭医」の定義がなかったために,「家庭医の質」に関しての議論,比較ができなかった.

反対する人がいたり,合意されるかどうかは別問題として,まったく恣意的ではあるが,これからは家庭医を「日本家庭医療学会の認定プログラムを修了した医師」と定義することができ,それに当てはまる当てはまらないが明確にできる.つまり比較調査,研究ができるということ.

これからは日本で生まれる家庭医の質が問われる.それだけに認定プログラムで研修をする医師の責任,そのプログラムを運営する側の責任は大きい.

しかし10名以上いるプログラム10個もあったかな~

2008/10/10

    パーキンソンの法則

医師ならよく知っているパーキンソン病とは何の関係もない

wikipediaより

パーキンソンの法則(Parkinson's law)とは、「仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する」(第一法則)、「支出の額は、収入の額に達するまで膨張する」(第二法則)というもの。以下、第一法則について述べる。

パーキンソンの法則は、英国の歴史学者・政治学者シリル・ノースコート・パーキンソンが、その著作「パーキンソンの法則:進歩の追求」のなかで初めて提唱したものである。パーキンソンの法則は、英国の官僚制を幅広く観察した結果に基づくもので、たとえば、大英帝国が縮小していたにもかかわらず殖民地省の職員数は増加していたとパーキンソンは指摘している。

パーキンソンによれば、このような結果は、 (1)役人がライバルではなく部下が増えることを望むこと、(2) 役人は相互に仕事を作りあう、という2つの要因によってもたらされる。また、パーキンソンは、官僚制内部の総職員数は、なすべき仕事の量の増減に関係なく、毎年5~7%増加したとも指摘している。

パーキンソンの法則には、コンピュータに関するバリエーションもあり、それは「データ量は与えられた記憶装置のスペースを満たすまで膨張する」というものである。システムに組み込まれるメモリー容量の増加は、より多くのメモリーを必要とする技術の発展を促すのである。過去10年間の傾向として、システムのメモリー使用量はおおむね18ヶ月ごとに倍増している(ムーアの法則)。幸いなことに単価当りのメモリー量も12ヶ月ごとに倍増してきたが、この傾向には物理的な限界があり、永遠に続くことはない。

パーキンソンの法則は、より一般的に、「ある資源に対する需要は、その資源が入手可能な量まで膨張する」という形で述べることもできる。



「ある資源に対する需要は、その資源が入手可能な量まで膨張する」

病院の仕事が忙しいので医者の数を増やしたがちっとも楽にならない.
渋滞がひどいので道路を拡張したが,また渋滞がひどくなった.
生活がきついのでより収入の多い仕事に就いたが,相変わらず生活はきつい.(貯金ができない)

等いくらでも例は挙げられると思う.これはシステム理論でも説明できる.

ここから学べるのは単純に足りない資源を獲得するように奔走したところで,その資源はすぐにまた足りなくなる.必要なのは,その資源が枯渇する前に,その資源により依存しない仕組みを作ること.

こちらには第三法則も紹介されている.
パーキンソンの法則

「拡大は複雑化を意味し、組織を腐敗させる」(パーキンソンの第三法則)


TOC/CCPMの提唱者、エリヤフ・ゴールドラット(Eliyahu M.Goldratt)は、著書「Critical Chain」(1997年)においてプロジェクト遅延メカニズムの1つとして、「パーキンソンの法則」を挙げている。これは、作業が早く終わっても次工程に回さない(与えられた作業時間は自分で消費する)、早期完了の未報告といった現象をいう。


出典については別の説も

パーキンソンの法則


シリル・ノースコート・パーキンソンが1955年にイギリスのエコノミスト誌に発表した記事に由来します。


同様のものに「容積満杯の法則」というのがあります.

転居者マーケティングと『容積満杯の法則』

狭いからといって広いところに引っ越すのに,そこがすぐに一杯になる.

私の場合「かばん」もそうです。
持ち運ぶ荷物がどんどん増えて、それに合わせて、かばんを大きくしていたのですが、かばんが大きくなれば不思議に入れる荷物もどんどん増えていきます。


このことを知っていたので,鞄を買い換えるときに,より小さいものに買い換え増した.

そのせいで鞄2つ持ち歩いてますが....
でも総量は減りました.スペースがないことで,「もしかしたら必要かも」ぐらいのものを何でも入れていたのが,「本当に持って行かなければならないのは何か」とシビアに考えるようになっています.

基本的にはパーキンソンの法則のことですね.

繰り返し:人が足りないから増やす,時間が足りないから増やす(増やせないけど),物が足りないから増やす,は基本的には一時しのぎの解決でしかない.

診療所運営の場合は経営面を考えるとこの法則を逆手に取ることができます.(ヒントはここまで)

2008/10/08

    発達障害理解のために (政策レポート)

公衆衛生ネット 新着情報から


発達障害に関する政策レポートです。自閉症、アスペルガー症候群、その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害などの特徴、対応についての解説です。
http://www.mhlw.go.jp/seisaku/17.html


政策レポート 発達障害の理解のために

本当にさっと読めるので是非一度目を通してください。

こちらも参考に。

発達障害情報サービス



ちなみに公衆衛生ネットには役立つ情報も少しずつたまってきています。
一覧から探す役に立つ情報

2008/10/07

    「医療における安心・希望確保のための専門医・家庭医(医師後期臨床研修制度)のあり方に関する研究班」のホームページ

ロハスメディカル ブログ より

「医療における安心・希望確保のための専門医・家庭医(医師後期臨床研修制度)のあり方に関する研究班」のホームページ

まだ整備はこれからの部分が多いが、このような形で議論がオープンになるのはすばらしいことと思う。
すべての利害関係者を巻き込んで。
できれば患者さん、一般の人の声が聞きたいです。

研究班 班長は国立がんセンター中央病院 院長 土屋 了介先生。 例の家庭医本のアイデアを出した張本人である。

ほんの後書きに、土屋先生の言葉として(逐語ではないが)、「癌センターの専門医にかかるのは一生に1回あるかないか。ほとんどの人がしょっちゅうかかる家庭医の本の方がいいのでは?」という意見で、企画ができたとのこと。

専門医の立場でgeneralistの必要性を訴えてくださる人がいるのは本当にありがたい。自分たちの仕事をやりやすくするために、generalistが優秀でなければならないことをよく理解しているからなのだと思う。

ロハスメディカルの記事で、

知って得する診療科のナゾ【9月30日UP】
2008年9月号掲載(512KB)


にも、わかりやすい形で現在の標榜科の問題と、家庭医の必要性がかかれています。

    New joint WHO/Wonca report 'Integrating mental health into primary care - a global perspective'

WONCA APR 2008 Melbourneより無事戻りました.
たくさんの刺激を貰い,アイデアを持って帰ってきました.
アジア太平洋地域は時差が少ないのでずいぶん楽です.
今日はまたいつもの日常にすぐに戻りましたが.アタらしく短期研修にくるひとが3人いて,スタッフのS医師が中心に研修の目標設定.

WONCAについては1参加者としてではなく,APR(Asia Pacific Region)の運営側の立場で参加した視点で少しずつ報告をしていきたいと思います.

まず最初.
学術集会の初日.開会式でWONCAのpresident Dr. van Weelよりプレゼンテーション.
メルボルンは1972年にWONCAが結成された地.そして前任のWONCA CEO Dr.Wes Fabbのhomeのために,しばらく事務局があった土地.

今回はWHOとの協働プロジェクトとして,メンタルヘルスをプライマリケアの診療にしっかりと統合していくことを重点に置きたいという話をされました.

Press Releaseはこちら

抜粋.

Integrate mental health better into primary care

Friday, 3 October 2008, 3:33 pm
Press Release: World Health Organisation

New report calls for mental health to be better integrated into primary care

Melbourne, 3 October 2008–The World Health Organization (WHO) and the World Organization of Family Doctors (Wonca) today released a joint report that aims to offer help to hundreds of millions of people who are affected by mental disorders but cannot receive the care and treatment they need.

The report "Integrating mental health in primary care - a global perspective" shows through detailed examples of best practices from 12 nations that, even though the current provision of mental health in primary care is still globally insufficient and unsatisfactory, integration can be successfully achieved in a variety of socio-economic contexts.

The report also outlines 10 broad principles to guide countries in their efforts to successfully integrate mental health into primary care. These principles have been derived from an in-depth analysis of the best practices, and range from clear policy directions and resource allocation at national level through to local-level commitment and capacity building on the ground.


関連するWHOのHPがこちら

Mental health Improvements for Nations Development: The WHO MIND Project

そして,レポートそのものがここ.

New joint WHO/Wonca report 'Integrating mental health into primary care - a global perspective'[pdf 4.03Mb]

From Blogger の画像


当日はDe. van Weelにつづいて,今回の報告書のWHOがわの統括のDr. Michelle Funkも檀上にあがりその重要性を話していました.

reportの本文は是非Part1とPart2のイントロまでは目を通してほしいのですが,(残りは各国の工夫や成功事例)エッセンスだけ.

Part1のChapter2
Seven good reasons for integrating mental health into primary care

1. The burden of mental disorders is great
2. Mental and physical health problems are interwoven
3. The treatment gap for mental disorders is enormous
4. Primary care for mental health enhances access
5. Primary care for mental health promotes respect of human rights
6. Primary care for mental health is affordable and cost effective
7. Primary care for mental health generates good health outcomes


我々にとっては当たり前の話ですね.

その中で印象的だったのは,Dr. van Weelがプレゼンで用いた一枚の図.いわゆる我々の世界では前提となるWhiteのdiagram (もしくはGreenのdiagram,ecology of careとも呼ばれています.1000人が1ヶ月の間にどのぐらい病気になるか,専門医にかかるか,入院するか,といった統計.)
のmental healthに限定したバージョンの図.

図は引用できませんが,その元となる文献を.(以下のリンクのどれでもみれます.Dr. van Weel自身の関わった研究であるところがみそ)

http://cat.inist.fr/?aModele=afficheN&cpsidt=18383208
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17256447
http://www.websciences.org/cftemplate/NAPS/archives/indiv.cfm?ID=20064890

Int J Clin Pharmacol Ther. 2007 Jan;45(1):23-9.

Treatment of mental health problems in general practice : a survey of psychotropics prescribed and other treatments provided

VAN RIJSWIJK E. ; BORGHUIS M. ; VAN DE LISDONK E. ; ZITMAN F. ; VAN WEEL C. ;

Objective: Real-life data on the treatment of patients with mental health problems are important as a reference to evaluate care and benchmarking. This study describes the treatment of mental health problems in general practice as diagnosed by general practitioners (GP). Material and methods: Data on mental health problems were available from structured psychiatric interviews in the general population and data on mental health problems diagnosed by general practitioners. Pharmacological and non-pharmacological treatment data were taken from patients records held electronically in general practices. Results: GPs diagnosed a mental health problem in 13.2% of the 1,756 cases examined and 86% of these patients were treated by the GPs themselves. Of the 16% referrals, the majority were referred within primary care. Nearly all patients with a mental health problem received counseling or advice from their GP. Half of the patients with a medication-related disorder, a (single) mood disorder or an (single) anxiety disorder and all patients with a combined anxiety and depressive disorder received a prescription for psychotropic drugs (antidepressants and/or benzodiazepines). Nearly all patients with a sleep disorder received a prescription for benzodiazepine. In patients with psychosocial problems, 20% received benzodiazepines. Conclusion: The majority of mental health problems, when professionally treated, are treated in primary care. More than half the patients are treated with antidepressants and/or benzodiazepines. Most patients also receive supportive counseling or advice.
Revue / Journal Title
International journal of clinical pharmacology and therapeutics ISSN 0946-1965
Source / Source
2007, vol. 45, no1, pp. 23-29 [7 page(s) (article)]


GPの診療で13.6%がメンタルヘルスの問題で,そのうち86%がGPにより治療される.abstractには書いていませんが,その約半分は何らかのカウンセリングのみで,残りがカウンセリング+投薬とのこと.本文に立ち返って読む必要があります.

WHOのreportに戻ります.Dr. Funkも強調し,reportの中でも強調されている,

10 principles for integrating mental health into primary care

1. Policy and plans need to incorporate primary care for mental health.
2. Advocacy is required to shift attitudes and behaviour.
3. Adequate training of primary care workers is required.
4. Primary care tasks must be limited and doable.
5. Specialist mental health professionals and facilities must be available to
support primary care.
6. Patients must have access to essential psychotropic medications in primary care.
7. Integration is a process, not an event.
8. A mental health service coordinator is crucial.
9. Collaboration with other government non-health sectors, nongovernmental
organizations, village and community health workers, and volunteers is required.
10. Financial and human resources are needed.


当たり前のことばかりですが,その中でもさらにDr. Funkは

7. Integration is a process, not an event.


ということを強調していました.
統合は一夜にして生じない.過程である.

いい言葉ですね.

これらの中でも我々のできることはまだまだありそうです.


8. A mental health service coordinator is crucial.


PSW (psychiatric social worker)という職種があることをどのぐらいのプライマリケア医が知っているでしょう.また自分の地域にいるのか,どうやって連絡を取ればいいのか.を把握しているでしょうか.

またこの報告書の付録には

Suggested functions that general practice physician trainees should be able to
perform before graduation

といった研修到達目標

• Serve as the first point of contact with the health care system for all patients, regardless of age or sex.
• Use a patient-centred approach, oriented to the individual, his/her family, and
the community.
• Use a biopsychosocial approach to understand and manage health problems.
• Identify health problems at an early stage where possible.
• Manage both acute and chronic health problems of individual patients.
• Provide care that is coordinated over time and determined by the needs of
the patient.
• Use health care resources efficiently through coordinating care, collaborating
with other primary care workers, and managing interfaces with medical specialists.
• Undertake health promotion with individual patients and communities.
• Provide population-based care, by considering the health needs of the local
population and undertaking interventions to reduce risks or improve quality of
life in specified groups.


英国での紹介のタイミング

Summarized guidelines for referring adults and children to secondary mental
health services, United Kingdom
(コレは引用しません)

等様々なリソースが含まれています.

あとは,こういった世界レベルの取り組みが,減衰することなく,国,行政,病院,医師レベルまで下りてくるか.ということです.うちのプログラムでも早速取り組んでいきたいと思います.

その他のWONCA報告は少しずつ.

2008/10/06

    Integrated Healthcare Networkにおける家庭医療クリニックの貢献とこれからの課題

以前予告したとおり,表題のタイトルで執筆した原稿が発表になりました.

Integrated Healthcare Networkにおける家庭医療クリニックの貢献とこれからの課題
【家庭医療クリニックと病院の連携例:亀田ファミリークリニック館山】
病院 特集「病院と家庭医療」 Vol. 67 No.10 2008 October pp.897-901


まだ日本ではそれほど知られていませんが IHN(Integrated Healthcare Network),という概念があります.

そもそも徹底的に縦割りにされた(Fragemented care)米国の医療システムでそれをなくすための仕組みとして出てきたものですから,割とシームレスに医療が提供されている日本では敢えて取り立てて生江をつける概念ではないかも知れません.が日本でも縦割りの診療,医療,福祉などの連携がまずいばかりに肝心な患者さんが迷惑を被っている例も多々ありますから,日本でもIHN,ということを意図した医療の仕組みづくりしてもよいかなと思います.

そのためにプライマリケア部門は抜きにして語れない.高度専門医療を目指す,それをウリにしたい医療機関ほど,プライマリケア部門の充実が必要なことは,逆説的ではありますが,generalistとspecialistとの協働について理解のある人であるほど,自明なことだと思います.

上記雑誌の巻頭言より.

 勤務医は疲弊している.そして,勤務医のほとんどが専門医である.複数の症状を持つ1人の患者は,複数の専門科を受診する.この時から病院を来院した1人の患者は,のべ数人の患者になるのである.そして,各専門医は多くののべ患者の診察で疲弊するのである.


この視点は非常に大事である.複数の問題を抱える患者であっても1人は1人として診療する.家庭医は1回の診療で平均3-4個の問題を扱う.だから病院の中にgeneralistがいるだけでも,延べ外来患者数は3-4分の1になる可能性を秘めている.その分病院の収入が減ってしまうところが大きな問題.米国はそのvisitのcomplexity(複雑度)によって,初診料も再診料も数段階に分けられている.