2008/02/19

    とっても心痛むこと

HIV Prevalence and Predictors of Infection in Sex-Trafficked Nepalese Girls and Women

Jay G. Silverman, PhD; Michele R. Decker, MPH; Jhumka Gupta, ScD, MPH; Ayonija Maheshwari, MD, MPH; Brian M. Willis, JD, MPH; Anita Raj, PhD

JAMA. 2007;298:536-542.
Vol. 298 No. 5, August 1, 2007

abstractのみから

ネパールで性的な対象として売買された少女、女性のHIV感染率とリスク
287名の性的対象として売買されていたことから保護された少女、女性のデータ

38%がHIV陽性
性的売買をしていたときの年齢の中央値17歳 14.7%が15歳になる前からそのような対象であった。15歳になる前から対象になると18歳以降よりもHIVのリスクが3.7倍。
ムンバイ(旧ボンベイ、インド)へ売られたらリスクが4.85倍、売春を強要させられる期間が1ヶ月追加になるごとに1.02倍(有意)、1年以上で2.67倍、複数の売春宿にいたら5.03倍

実際にたいしたことは日本にいる一個人が出来ないのだろうが、このことが対岸の火事、他人事としてすっと流せる人は家庭医の素質がない。

なぜなら、家庭医療の理論的基盤の一つにbiopsychosocialモデル(生物心理社会モデル)というのがあり、これは純粋にシステム理論でしかないのだが、すべてはお互いに影響を及ぼしあっている、特定の要素一つを取り出して、それだけに介入をして、他に影響を及ぼさない事はあり得ない。という立場。

この事実は何らかの形で日本に住む我々の個人個人に降りかかっている(もしくは降りかかっている)

常に目の前のことを自分と多かれすくなかれ何らかの関係があることとしてとらえることが出来る、自ら関係性を見いだし関わっていくことが出来る。システム理論とvolunteerismに家庭医療は根ざしていると考える。(僕のオリジナルでしょうか?)

「それは僕の仕事ではない」と考えたら(実際に自分がやるかどうかは別として、思考スタンスとして)、家庭医としてはおしまい。

世の中の人すべてが、システム理論とvolunteerismにもとづいて毎日を過ごせば世の中はもっともっと良くなる。(はず)

    hospitalistの費用対効果

Outcomes of Care by Hospitalists, General Internists, and Family Physicians

Peter K. Lindenauer, M.D., Michael B. Rothberg, M.D., M.P.H., Penelope S. Pekow, Ph.D., Christopher Kenwood, B.S., Evan M. Benjamin, M.D., and Andrew D. Auerbach, M.D., M.P.H.

Volume 357:2589-2600 December 20, 2007 Number 25 NEJM


abstractのみですが。
18歳以上の45の病院、76926人の患者 2002/9から2005/6までに入院になった人(入院のcommon problem:肺炎、心不全、胸痛、虚血性脳梗塞、尿路感染症、COPD急性増悪、AMI)
284人のhospitalist、993名の一般内科医、971名の家庭医
後ろ向きコホート

結果
hospitalistと一般内科医の比較
入院期間 0.4日短縮 P<0.001 
コスト削減 $268 P=0.02
有意差なし
院内死亡率 (odds ratio, 0.95; 95% confidence interval [CI], 0.85 to 1.05)
退院後14日再入院率 (odds ratio, 0.98; 95% CI, 0.91 to 1.05)

hospitalistと家庭医の比較
入院期間 0.4日短縮 P<0.001 
有意差なし
費用 $125; P=0.33
院内死亡率(odds ratio, 0.95; 95% CI, 0.83 to 1.07)
退院後14日再入院率(odds ratio, 0.95; 95% CI, 0.87 to 1.04)

コメント

疾患ごとのquality indicatorについては調査されていないが、合併症が出たり、急性期治療の質が悪いと入院日数が長引いたり、再入院したりするだろうから、そこを見ればよいのでは、という考え。
sample calculationがされていないので、有意差のない物についてはβエラーの可能性。(それでも0.95とか0.98なので大差ではない。→臨床的に有意ではない)死亡率は4.1-4.5% 14日再入院率は6-7%
患者の平均70歳
対象患者の性質(併存症など)には最初から少し差はある(鬱や糖尿病は家庭医の患者に多い)
一人の医師あたりの1年あたりの担当入院患者数は家庭医、一般内科医、hospitalistの順に20人、30人、75人
平均入院日数は3日前後(これ以上効率化して短くしようがないような気がする。。)

0.4日程度の入院日数の差(半日程度)はhospitalistなら朝の採血結果やバイタルを見て午前中に患者さんに話しに行って、そこで退院を決めて、オーダーが書けるところが、一般内科医や家庭医は朝回診しない場合もあるので、午前中の外来が終わって昼休みや午後に病院に行って患者さんにあって、データ見て退院を決めて、それから指示。という程度の違いだろうと思う。

入院ごとの$100-$200ドル程度の違いであるが、一つの急性期病院にしてみれば大きな問題。単純に800床、360日として、平均3日として96000件の入院であるから額にすると、20億円超。hospitalistさらに数名余分に雇ったり、他のサービスに回せる。

評価されていないのは患者さんの満足度。この研究の通り医療の質(狭義での)が変わらないとして、入院中に主治医が変わることによる(日本ではよくあることだが)満足度の低下がどのぐらいあるか。1回入院あたり1-2万円余分に自己負担が増えても外来の主治医に入院中に診てもらいたいと考えるか。このあたりの研究が必要。

日本では、家庭医、内科医、hospitalistの定義をするところから始めないといけない。
家庭医はプライマリケア学会専門医か、家庭医療学会認定プログラム修了生
内科医は内科認定医(これでは広すぎるか?)
hospitalistは外来をやらない人
で出来るような気はするが。。。

そもそもhospitalistとしての研修というのはなく、一般内科や家庭医として研修を受けた人がlife styleとしてhospitalistを選ぶので(つまり同じ研修を受けるので)妥当な結果といえば妥当な結果。医師の質と言うより、午前中に退院指示が出せるかどうかだけの違いのような。。そうすると病棟張り付きの研修医がいればそれほど問題にならないが。。。。