第1回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会 (今週末)
いよいよ記念すべき第1回の連合学会が今週末に東京フォーラムにて開かれます
先日送られて来た第1回の雑誌も非常に読み応えのある物でしたね。
さて、僕は自分が主演者での発表の実績を積む余裕もないままサポーター/コーチの立場を取ることが多くなりましたが、今回も口演1件、ポスター3件、WS1件、プログラム紹介1件と盛りだくさんの内容です。
では順番に。
口演 26日(土) GS1-14 G602 6F 14:00頃
家庭医診療所における 適正な抗菌薬選択のための ローカルファクターのとしての 細菌培養検査の分析
中山 久仁子1、岡田 唯男2 1みなと医療生活協同組合 協立総合病院、2鉄蕉会 亀田 ファミリークリニック館山
【目的】 外来感染症に使用する抗菌薬選択には地域の耐性 菌状況であるローカルファクターを考慮することが望 ましい。今回我々は外来での細菌培養結果から抗菌 薬使用について検討したので報告する。
【対象・方法】 調査期間は2007年1月から2009年12月までの3 年間。対象は亀田ファミリークリニック館山の医科外 来受診または訪問診療において、細菌培養検査を 実施された全患者。細菌培養検査結果を横断分析 し、培養陽性率、尿路・女性生殖器・呼吸器感染症 の原因菌の種類と割合、それぞれの薬剤耐性菌の 割合について調査した。
【結果】 総検体数 2361 件。培養部位は尿(41%)婦人科分 泌物(20%)痰(11%)。起因菌が検出され感受性試 験を行ったのは 676 件(陽性率 28.6%)で、尿 (46.5%)婦人科分泌物(11.5%) 痰(25%)であった。 尿培養では Escherichia coli (58%)が最多、耐性菌 検出率は CEZ(3.1%)、LVFX(8.4%)、ST(5.4%)であ った。婦人科分泌物は GBS (56% )が多く PCG 耐性 菌はなかった。喀痰培養は Streptococcus pneumoniae ( 50% ) と Haemophilus influenzae(37%)が多く、S.pneumoniae の耐性菌 検出率は PCG(3.7%)、AMPC、CTX、LVFX(0%)、 H.influenzaeの そ れ はAMPC(25%) 、 CTX 、 LVFX(0%)であった。H. influenzae の 15%はラクタ マーゼ非産生アンピシリン耐性(BLNAR)であった。
【結論】各検体での主たる原因菌とその感受性,耐性菌率 が判明した。この結果に基づいてエンピリック治療に おける第一選択薬剤の推奨が可能となった。薬剤感 受性は変化するため、今後も定期的な調査が必要と 思われた。さらに BLNAR が 2 年連続検出され、Hib ワクチンも積極的に推進する必要がある。
http://www.primary-care.or.jp/primary2010/subj/gs1.pdf
昨年度1年限定で研修に来て下さった方との発表。ちょっとしたアイデアひとつで、大きな手間なく質の改善と発表が出来るという好例です。データは細菌検査室に出してもらえばよいので。もちろんデータからどのような意味を見いだしどのようなアクションを起こすか,というところに、能力が問われる訳です。
ポスターセッション(3件)
開催日時 26日(土)16:30~17:30
会場 ホールB5 5F
http://www.primary-care.or.jp/primary2010/subj/pt1.pdf
3件が、1番目,3番目、4番目にあたっていますので、時間通りで進むと16:30, 16:50, 17:00の予定です。慌ただしいですが、以下発表順に(発表の列が違うのでご注意)
PT1-071
3年間の後期研修における研修内容の分析 (数字で見る家庭医研修)
岡田 唯男1、吉田 賢史2 1鉄蕉会 亀田ファミリークリニック館山 家庭医診療科、2鉄蕉会 亀田総合病院 在宅医療部
【目的】日本家庭医療学会においてプログラム認定 が開始されたが、とくに外来研修の量については設 定されておらず、現状もあまり把握されていない。ま た、日本においてはマンパワーとしての後期研修医 への期待から業務と研修のバランスにも留意する必 要がある。1施設による家庭医療後期研修医の研修 実績を明らかにし、今後の後期研修プログラムの改 善につなげる
【対象・方法】鉄蕉会 亀田ファミリークリニック館山 家庭医療後期研修プログラムにおいて 2007 年4月 から 2010 年3月まで後期研修医として在籍した4名 の勤務スケジュールと外来診療データをもとに、外来 診療、訪問診療、他科ローテーションのそれぞれの 時間比率、外来診療数の実績と単位時間あたりの生 産性などについて測定,分析を実施した。半日を1単 位とし、時間比率については勤務スケジュールの手 カウント、外来診療数については法人の医療情報管 理室からのデータを利用した。
【結果】3年間の総時間数に占める各種診療の割合 は、家庭医療診療所における外来診療39%(予約2 3%、当日16%)、訪問診療21%、他科研修(ローテ ーション35%)であった。外来診療に関して、後期研 修医一人あたりの外来数は3年間で654単位 (4.4 回/週)、1単位あたりの診療患者数はのべ 16.8 人、 一人の患者あたりの平均診療時間は 12.6 分であっ た。
【結論】他施設のプログラムと比較してもおおむね外 来,訪問、他科研修の割合はそれほどかけ離れてい るものではない。外来診療コマ数や診療患者数につ いては今後他施設の報告などを待ち、研修上の適正 数、経営上の適正数などについて更なる議論が深ま ることを期待する。
今年春にうちの後期研修を修了した先生。卒業プロジェクトとしての取り組みが学会発表につながりました。なかなか個性的な人です。デザイン力に隠れた才能があり、このポスターも、そしてもうひとつの彼の作品であるプログラム紹介のポスターもよくできています。粘り強さと集中力があり、今回の調査にあたっても、3年間のシフト表を根気づよく手カウントしてくれました。
PT1-133
医学生は家庭医療コース参加の結果 どのように変わるのか?(第二報)
武者 幸樹子1、岡田 唯男2、喜瀬 守人3、 麦谷 歩4、亀谷 学1
1川崎市立多摩病院 総合診療科、2鉄蕉会 亀田ファミリー クリニック館山、3川崎医療生協 久地診療所、4医療法人相 生会 臨床薬理センター 墨田病院,大阪市立大学大学院医 学研究科 公衆衛生学 博士課程
【目的】2008 年,我々は家庭医療講義が「家庭医療」 のイメージを変化させ,具体的なイメージの獲得に寄 与すること,および受講後は家庭医療の診療範囲と 能力を正しく認識できるようになることを報告した.た だしこの調査は家庭医療のイメージの変化,診療範 囲の理解という面からのみ学びを評価している点,ま た対象者が9名と少ない点で,医学生の変化を具体 的に把握することが困難であった.今回の研究は, 「家庭医療」講義を受講することで医学生がどのよう に変化するのかをより詳細に明らかにする.
【対象・方法】聖マリアンナ医科大学で 2007~2009 年度に選択講義「家庭医療」を受講した医学生を対 象とした.研究デザインは,医学生の具体的な変化 を把握するため質的研究とした.半構造化されたフォ ーカスグループインタビューを講義終了後2~6か月 の間に実施した.グラウンデッドセオリーアプローチを 用いて複数の研究者が独立して分析した.
【結果】3~6人のフォーカスグループインタビューを5 回行った時点で,理論的飽和に達したと判断した. 参加者は 20 人.受講前の状態(知識,受講のきっか け),家庭医療の機能・特徴に関する理解(身近な主 治医,+αの機能,普及の必要性,アイデンティティ), 他科との比較(家庭医の長所,専門医の長所,家庭 医の意識),進路としての家庭医療(志望,不安,働 きやすさ),講義の評価(形式,要望)の5つのカテゴ リーが抽出された.
【結論】家庭医療講義による医学生の変化が明らか になった.講義は大変好評であった.講義前は家庭 医療を知らない医学生がほとんどであったが,受講 により家庭医療の機能・特徴を正しく理解した.新た に家庭医療という分野を知り、将来の進路選択肢に 加える学生が多かった.この結果を踏まえて,全国の 医学部において家庭医療講義を行うことは,家庭医 療普及に有用であると考えられる.
2008年に学会賞を頂いた研究のフォローアップ。
2008/06/02 日本家庭医療学会 学会賞 受賞!
学会賞は頂いたものの、当時の審査委員長の講評で「質的の部分のデータ量が少ない、ぜひフォローアップを」のご指摘をいただき、真摯に受け止めてようやくたどり着きました。もちろん今回の筆頭発表者の努力と根気があってこそ。
本格的に研究をするのはやはり長い時間がかかります。なので,それだけ長い時間かかってもやめたくならない(それだけずっと情熱の注げる)テーマ選び、というのがとにかく重要と思います。
この発表もすばらしい結果の提示が出来ると思います。質的研究のポスターはこんな風にやるのがいいですよ。というプロトタイプがお見せできると思います。
PT1-114
家庭医が行う産後ケア -産後ファミリー外来の実績調査
平 洋1、岡田 唯男2、上川 万里子2 1はるな生活協同組合 高崎中央病院、2医療法人鉄蕉会 亀 田ファミリークリニック館山
【背景】亀田ファミリークリニック館山(以下 KFCT)で は、従来から行われている妊婦健診に加え、産後ケ アの取り組みとして、2007 年 8 月より、出産後 2 週と 1 ヶ月の母子をセットにした健診(産後ファミリー外 来)を家庭医が助産師とともに行っている。
【目的】KFCT における家庭医が行う「産後ファミリー 外来」の実績調査を行い、母乳育児継続率などのア ウトカムへの影響を検討する。
【対象・方法】2007 年 8 月~2009 年 12 月の期間に、 KFCT の「産後ファミリー外来」を利用した方(のべ 109 人)を対象に、カルテレビュー及び郵送による無 記名アンケート調査を実施。
【結果】2 週と 1 ヶ月の両方の健診を利用された方は 全体の 34.8%であった。生後 1 ヶ月時点での完全母 乳栄養の割合は 46.8%で全国平均(2009 年厚労省 調査:48.3%)並みであった。KFCT で妊婦健診を受 けた方の 1 ヶ月時点での母乳栄養の割合は 40.0% であった。産後うつスクリーニング(エジンバラ産後う つ病質問票)陽性者は、1 ヶ月時で 1.8%で全国平均 (同調査:10.3%)と比し低率であった。風疹抗体価が 低い方の産後の予防接種実施率は 63.3%であった。 アンケート調査(回収率:51.4%)では、「診察時間」、 「不安の解消」、「医師と助産師の連携」の項目で概 ね良好な回答が得られた。回答者の 99%は、その後 も何らかの理由で KFCT に受診されていた。
【結論】家庭医と助産師の連携による新たな産後ケア を提供できた。妊産婦・小児とも継続的に関わること のできる家庭医の特徴を活かした取り組みと言える。 今後は、母乳育児継続率や風疹予防接種の実施率 などのアウトカムの向上のため、産後 2 週の健診利用 者の増加や妊娠中・出産直後の介入の強化などが 課題と考えられた。日本で普及させるためには、産後 ケアの教育システムの整備、産科・産院・小児科施設 との連携が重要である。
ライフワークであるマタニティケア周辺のテーマ。産後ファミリー外来については、以前にもすこし取り上げました。
2007/08/02 バースレビューの論文 review on birthreview
この春後期研修を修了して群馬へ戻った先生が卒業プロジェクトとして取り組んで下さいました。
まだまだ,改善課題の多い領域ですが、既に実践を続けている,という事実、その発表を行うという行為自体が価値のあることと信じて、引き続き取り組んでいきます。
ここで1日目終了。
プログラム紹介、懇親会,二次会を楽しみにしています
2日目。
WS-06詳細
テーマ プライマリ・ケア医が知っておきたい産婦人科診療
開催日時 27日(日)9:00~12:00
会場 G502(第8会場)
縁あって,この数年間毎年、このテーマで任せて頂いています。
全く自由な3時間なので,毎年試行錯誤ですが,今年は
45分x3コマのWSというよりはレクチャーが中心になるとは思いますが、2名の素晴らしい仲間に手伝ってもらって
1. 家庭医による避妊と性教育 手稲渓仁会 小嶋 一 先生
2. 在宅高齢者の婦人科的症状への関わり方 亀田ファミリークリニック館山 家 研也 先生
3. 妊娠とくすり、授乳とくすり 岡田
という、豪華ラインアップでお送りします。
上記以外の時間は仕事の打ち合わせをしたり、旧交を温めたりという感じです。
より多くのみなさまとポジティブなエネルギーのやり取りが出来ることを楽しみにしています。
見かけたら声をかけて下さい。