2008/05/23

    事前確率はどこから来るのか? (Where do pretest probability come from?)

LR (likelihood ratio)やBayesの定理など臨床推論に絡む話をするとほぼ必発の質問

「そもそも最初の事前確率はどうやって知るのですか?」

至極妥当な質問である.

ある診断が問題になっているときにその診断に役に立つ症状や身体所見,検査値の異常があったり無かったりするとき,最終的なその診断の確率 posttest probailityはそれに対応するoddsの形で

pretest odds x LR+(A)x LR+(B)x LR-(C)x LR+(D)x LR-(E)x LR+(F) =posttest odds

(例えば症状A,Bはあるが症状Cがない,身体所見DはあるがEはなく,検査Fが陽性の場合)

として表されるLR+\-は全てその症状,所見,検査に固定された数字なので(本当は違うのだが),最も大事なのはpretest oddsの見積もり,つまりそれに対応するpretest probability(事前確率)の見積もりが最も重要である.その見積もりにが大幅に違うと,その後の問診,診察検査が適切であっても,事後確率は影響を受ける.しかしその方法については意外と書かれていない.

その質問に答える際にいつも引用している論文がこれ

Richardson WS: Where do pretest probabilities come from?
ACP Journal Club 1999, 4:68-69.

あいにく購読していないと読めないので骨子だけ抜粋

pretest probabilityの源となりうるものは4種類

1.Remembered cases
2.Practice database
3.Planned research
4.Population prevalance

1.医師の経験から.当然診療所でやっている医師にとっての発熱咽頭痛の最終診断の上位(大半は風邪)と,化学療法で白血球が下がっている患者さんばかり見ている血液腫瘍内科医にとっての発熱咽頭痛の最終診断の上位は違う,その領域で長くやっていればやるほど,「その領域,セッティング,状況」での様々な事前確率の見積もりは正確になるが,そのぶん,「領域,セッティング,状況」が変わると見積もりが外れる確率が高くなる.
また直近の経験によりバイアスを受ける(最近脳腫瘍による頭痛を診たとか,見事珍しい病気を診断したとか,自分の興味のある領域の疾患が高く見積もられるとか)
胸痛の患者において,循環器内科医は心臓疾患を,消化器内科医は消化器疾患をgeneralistの見積もりよりも上位に上げることは知られている.

2.自分の診療所が非常に整理整頓されていて,この様なことを意図して診療すると自動的にデータがたまるようにしていれば,(そうでなくても調べることが出来れば),自分の医療機関での事前確率はしっておくことができる.咽頭培養を出した全部の患者のうち溶連菌がどのぐらい陽性なのか.この数字が検査室や検査の外注会社に出してもらえれば,「この人は咽頭培養を出そう」と考えた人の溶連菌の事前確率そのものである.
それがわかっていて迅速キットの感度特異度がわかっていれば,事後確率の見積もりはたやすい.
電子カルテがあれば,そのようなデータ収集も容易になるだろう.

3. そのような事前確率を知るために計画されたリサーチは多いので,PubMedなどに当たることで,見事見つけられるかもしれない.また,必要なら,そのために自分の診療所で前向きに計画を立てるのも良いだろう.

4. 代表的な疾患なら,市町村や保健所が統計を取っている場合もある.また,国民衛生の動向等も使えるだろう.

ただし現在の所,医学生も,経験ある医師も事前確率の見積もりは不正確,ということになっているようです.

以下同じ著者による最近の論文(こちらは読めます.ほぼ同じような内容です)

W SCOTT RICHARDSON. Five Uneasy Pieces About Pre-test Probability. J Gen Intern Med. 2002 November; 17(11): 891–892.

2008/05/21

    竹村先生 論文 Family Medicine 誌に掲載!

三重大学の我らが竹村先生の論文があのFamily Medicine誌の先月号に掲載されています.

Yousuke C. Takemura, Reiko Atsumi, Tsukasa Tsuda. Which Medical Interview Behaviors Are Associated With Patient Satisfaction? (Fam Med 2008;40(4):253-8.) link pdf

Abstractはこちら

OBJECTIVE: The objective of this study was to investigate the association between several medical interview behaviors and patient satisfaction. METHODS: The subjects were 158 new patients who visited an outpatient facility of a university hospital in Japan. All medical interviews were videotaped and reviewed by a trained rater using a medical interview rating scale (Takemura Medical Interview Rating Scale) for evaluating medical interview behaviors. To measure patient satisfaction, a self-administered questionnaire was also developed. Both the rating scale and the questionnaire were assessed for validity and reliability beforehand. RESULTS: A significant positive association was found between the behaviors of reflection and legitimation on the one hand, and patient satisfaction on the other. The positive association between reflection and patient satisfaction existed after adjusting for both the duration of the interview and the other medical interview behaviors used. The association between legitimation and patient satisfaction also existed after adjusting for the duration of the medical interview but disappeared after adjusting for the other medical interview behaviors used. When we investigated the strength of the relationship between each medical interview behavior and patient satisfaction, reflection was found to be the strongest determinant of patient satisfaction. CONCLUSIONS: This research revealed a significant positive association between reflection or legitimation and patient satisfaction in an actual clinical practice setting.



私も一度は掲載されてみたいと思っている雑誌なので,うらやましい限りです.私も頑張ります.地道にやるしかないですね.

竹村先生 津田先生 おめでとうございました

2008/05/19

    家族指向のケアを電子カルテで実現する(Family Chart in the Electronic Age STFM 2008)

今年のSTFMは奈義ファミリークリニックの松下先生とご一緒させて頂いた

この何年かコラボレーションとシナジーをテーマにしている私は,意図的にいろいろな人と仕事をしている(迷惑をかけながら),その一環としてこれまで自分のアイデアだけでSTFMに発表を行ってきたが(倍率約3倍の所を,幸いこの数年ほぼ毎年acceptされており),コラボレーションの新たな場所としてのSTFMの第1回目として(そのほかの理由もあるのだが)昨年の夏前に松下先生にこの提案を申し出た.快く承諾下さり無事発表を終えたその骨子だけとりあえず下記に紹介しておきます.

この数年,体感的に家族志向のケアの重要性の理解がさらに深まっていたこと,それにつけ,現在の診療システムが(特に電子カルテ)がそれをサポートするように作られていないこと,そのせいで,本当は提供できたはずの家族志向のケアを提供できるチャンスを数多く失っていることなどが気になっていたことと,奈義ファミリークリニックの電子カルテが見事にそれをサポートする仕様を備えていたこと,そのような仕様を備えた電子カルテはおそらく米国でもまだ無いだろうと考えたことで,この発表にいたりました.米国の家庭医が(核家族化,個人主義の国で),どのぐらい家族志向のケアを重要ととらえているのか,またそれらを実現する仕組みをどのように実現しているのか意見交換できれば,という意図でした.

思った以上の人が来て下さり,好意的な発言,熱い議論が出来たことが良いfeedbackとなりました.家族志向度やそれがどのぐらい仕組みとして実現できているかはほぼ私の所と同じぐらい(志向度は高いが,実現度は低い),というのが印象で,やはり奈義の電子カルテは米国から見ても数段先を行っている,というかんじでした.

興味深かったのは,参加者の中に,自称「家族志向おたく」というひとがいて,家族全員が自分を家庭医として登録してくれない限りは患者としては受けない.ということでした.
米国ではかかりつけ医は契約上で指定をするので,様々な理由で患者を受けない「かかりつけ契約を交わさない」という選択肢がある状況ならでは,ですが,そこには「家族にも医師として介入できないとその患者さんへの十分なケアが提供できない(ので,そうでない限りはうけない)」というのは,家族志向のケアへの強い信念とこだわりの現れを感じました.

松下先生と頑張って論文にしましょうという約束をしたので,学問的なお話しは論文を楽しみにしていて下さい.(決意表明をここでやると引っ込みがつかなくなるのであえて決意表明です)

うちの電子カルテにも家族志向機能を取り入れるよう,働きかけなければ..


FMDRLにてupしてあります.
下記からも直接見られます.

Family Chart in the Electronic Age STFM2008(L42A Matsushita)




Family Chart in the Electronic Age STFM Baltimore handout 2008




まだ今回のSTFMの印象まとめてないな~

2008/05/18

    Tag Healthcare Management !(blog紹介)

Tag Healthcare Management !(blog紹介)

blog上では匿名なので匿名のままで
先日彼女にSTFMで会って「いつまでも私のblogにリンクを張ってくれない」といわれた.リンクを張るときは紹介のentryを書いたとき.がこれまでの通例.彼女のことを紹介するのに,何からどうやって書いて,どのぐらいまとめればいいのか想像も付かないから結局ずっと書けないでいた.頑張って書いてみようと思う

もうかれこれ6ー7年ぐらいのつきあいになるだろうか.
彼女は僕にとっては運命の人である.そして因縁の人である.
彼女に言わせると僕たちは前世でも関係があって命のやりとりをした,ということになっている.
周りから見ても僕たちは特別な関係にあるのではないか,と勘ぐられてもおかしくないつきあい.実際僕たちは特別な関係にある.但し妻に迷惑がかかったり妻を悲しませるような関係ではない.

conflict managementのセッションをするときに引用する内容で
「人間関係は初めは表面的な物で,深い相互理解に至るにはconflictを経由する必要がある(だから衝突はその為の試金石として前向きに取り組みましょう)」
というのがある.

彼女は僕に会う前から僕のことを嫌っていた.僕はしばらくしてから彼女は苦手なタイプだと思った.当時はそれでも根気よく向き合う若さが自分にあった.
気が付いたら絵に描いたように深い相互理解になっていた.という感じ.
彼女からは絶大なる信頼と許容を感じている.それは私自身の欠点も全部含めた上での許容である.
僕も彼女の欠点は一杯知っているけれど,まあそれはそれで,裏返せば長所ですから,という感じ.
彼女は僕のいるところで家庭医になり(僕が家庭医にしたのかは不明),公衆衛生を学んだ立場から「システムで物を考える」ということばかり話していたせいか,英国へhealth care managementを学びに留学することになった.

現時点では完全に両者が同等であり,お互いに教え,学び,サポートし,尊敬する関係にある.
最近の僕の生き方も随分彼女に影響された.

一体一生のうちでどれだけの人とこれだけの関係が築けるのだろう.

彼女はこの10年ぐらいで大幅に変わった.少なくとも私から見れば.本質は変わっていないかもしれないが,表現型は.それは僕が昔からその本質は変わっていないが,その表現型が10年ほどで大幅に変わったのと似ているのではないかと思う.

今多くの人のキャリアを見ているが医師のキャリアで2回目の重要な時期は6-7年目から10年目ぐらいにあるような気がする.(1回目はもちろん最初の2-3年)

「いつ死んでもいい」が最近の彼女の口癖だが,彼女にはこれからしばらくの間世界に貢献してもらわねばならない.

とにかく彼女はパワフルである.
「日差しが強いほど影も濃い」明るい人ほど内面は傷つきやすかったり,いろんな事を気にしていたりする.彼女も例外ではない.ただ随分丸くなりましたね.年の功か.聞けなくなると寂しくなるのが当時もてあましていた毒舌だったりするのですが...


Tagというnicknameはもちろん彼女の名前から来ているのだが
その意味に付箋,目印,そして注意深くフォローする,という動詞としての意味などがあることも彼女は意図していたのだろうか.
とにかく興味のあるあらゆる事に首をつっこんで足跡を残し,いろんな事をかぎ回っている.

これからも家族ぐるみのつきあいよろしくお願いします.

しかしホントに私的なまとまりのないentryになってしまいました.ま,narrativeも家庭医療の重要な要素ですから.

次はtarogoさんかな...