2008/05/17

    Top 10 Articles January 2007 - December 2007 (6-10)

Top 10 Articles January 2007 - December 2007
後半6-10番まで

6.
Section: Therapeutics
David Tirschwell
Aspirin plus dipyridamole was more effective than aspirin alone for preventing vascular events after minor cerebral ischaemia
Dec 01, 2006 11: 169-169

小規模の脳梗塞の後アスピリンにジピリダモールを追加した方が再発予防効果が高いという論文

対象は

a minor ischaemic stroke (<=3 on the modified Rankin scale) (66% of patients)
transient ischaemic attack (TIA) (28%)
transient monocular blindness (5%) of presumed arterial origin
in the previous 6 months.

Exclusion criteria included a possible cardiac source of embolism, high grade carotid stenosis, blood coagulation disorder, and limited life expectancy.


Composite end point 13% 16% 19% (2 to 32) 35 (20 to 347)
全ての血管イベント脳卒中,心筋梗塞は重症の出血による死亡が平均3.5年のフォローで
アスピリン+ジピリダモール群で13% アスピリンのみの群で16% NNT 35(ただし,95%CIが20-347)
ジピリダモールは1日400mg分2(9.5円x8= 80円弱)


またアスピリン+ジピリダモール群は34%が治療を継続できなかった(アスピリン群の治療中止は13%)脱落の多かった理由はオリジナルを読む必要あり

対象が軽症脳梗塞・TIAということ,効果の程度が不正確(NNTのCIが広い)などはあるが,それでもbenefitはあるのと,それほど高価な薬ではないので十分検討の余地はあると思います.

7.
Section: Therapeutics
C. Raina Elley, Bruce Arroll
Review: aerobic exercise reduces systolic and diastolic blood pressure in adults
Nov 01, 2002 7: 170-170

有酸素運動の血圧降下に対する効果についてのmeta分析(50以上のRCT)
最低2週間以上の有酸素運動
正常血圧の人も含めて
収縮期 -3.84 (-4.97 to -2.72)mmHg
拡張期 -2.58 (-3.35 to -1.81)
の減少(高血圧の人はもう少しだけ減少度が大きいがそれでも収縮期で5ぐらい)
アウトカムの測定がPOEMではなくDOEであること(長期的な死亡などの減少は分からない)
以上.

8.
Section: Resource review
John E Cornell, Valerie A Lawrence
Lang TA, Secic M. How to report statistics in medicine. Philadelphia: American College of Physicians, 2006. This book can be obtained from www.amazon.co.uk for {pound}33.20.
Jun 01, 2007 12: 90-91

表題の本のレビュー

9.
Section: Economics
Aslam Anis
Review: the cost-effectiveness of interventions for HIV/AIDS in Africa varies greatly
Jan 01, 2003 8: 32-32

アフリカにおける60の費用対効果に関する報告のレビュー
そのまま原文の一部を載せる(太字は岡田)

Cost-effectiveness varied greatly between interventions. A case of HIV/AIDS can be prevented for $11, and a DALY gained for $1, by selective blood safety measures, and by targeted condom distribution with treatment of sexually transmitted diseases. Single-dose nevirapine and short-course zidovudine for prevention of mother-to-child transmission, voluntary counselling and testing, and tuberculosis treatment, cost under $75 per DALY gained. Other interventions, such as formula feeding for infants, home care programmes, and antiretroviral therapy for adults, cost several thousand dollars per infection prevented, or several hundreds of dollars per DALY gained


11ドルで1例のHIV/AIDSが予防でき,1ドルで障害で標準化された1年(DALY)が得られる(単純には1年寿命が延びるとして良い)(1ドル/1DALY)(DALYとはppt).先進国の標準的な介入よりずっと格安.(GUSTO trialに基づくtPAの費用対効果は13943ドル/1DALY,統合失調症の治療薬のDALYはここ
ここにも経済法則は生きている(限界効用逓減の法則

10.
Section: EBM notebook
Mark D Schwartz, Deborah Dowell, Jaclyn Aperi, Adina L Kalet
Improving journal club presentations, or, I can present that paper in under 10 minutes
Jun 01, 2007 12: 66-68
表題どおり.論説

2008/05/15

    Top 10 Articles January 2007 - December 2007 (1-5)

BMJ groupによるEBMという直球ど真ん中の雑誌のオンライン版で2007年の一年間にアクセスの多かった順にtop 10.

Top 10 Articles January 2007 - December 2007

それらはあくまで一般の興味の度合い,話題に上った度合いの反映に過ぎないので,それをcontrovertialな物もあるだろう.ともあれ,それだけ話題になったのであるから,医師の一般教養としては知っておく必要があるのではないかと思う.(批判的吟味は各自でお願い致します.)

上から順番に
1.
Section: Clinical prediction guide
Graeme J Hankey
The ABCD, California, and unified ABCD2 risk scores predicted stroke within 2, 7, and 90 days after TIA
Jun 01, 2007 12: 88-88

自然発症リスクについても言及 
3.9%, 5.5%, and 9.2% of patients had stroke within 2, 7, and 90 days of TIA
11人に1人は90日までに脳卒中を起こす
Age (60 y = 1), Blood pressure (systolic 140 mm Hg or diastolic 90 mm Hg = 1), Clinical features (focal weakness = 2, speech impairment without focal weakness = 1), Duration of symptoms (60 min = 2, 10–59 min = 1), and Diabetes = 1.
スコアは0-7点を取り得る

risk scoreで分けたとき
21%がハイリスク群に分類 2日目までの脳卒中発症リスクが8.1% (全平均の約2倍)
45%が中等度リスク 4.1% (全平均と同等)
34%がローリスク 1%(全平均の4分の1)

ABCD, ABCD2リスクスコアそのものは高いときの的中率はそれほどでもなく,低いとき(0-3)の除外率がまあまあ LR- =026-0.31

1.0%の発症率が許容できるかどうか.

2.
Section: Therapeutics
Gary C Curhan
Review: medical therapy with calcium channel blockers or {alpha} blockers helps patients to pass urinary stones
Feb 01, 2007 12: 15-15

最近のトピック 尿路結石の排石の可能性を血圧の薬で増加させられる.現在米国では標準的に使用する医師がまだ2割程度,ということであるが,そのうちstandard of careになると思われる.先取りを.
8mmまでの石に対し15-48日までのフォローで対照群(無治療もしくはステロイド内服)の自然排石が47%に対し介入群が78% (NNTなんと3-4!)
doseや投与期間はoriginalの吟味が必要
48日も待てないけれど...

3.
Section: Diagnosis
Petros Skapinakis
The 2-item Generalized Anxiety Disorder scale had high sensitivity and specificity for detecting GAD in primary care
Oct 01, 2007 12: 149-149

2つの質問で不安障害の有無をスクリーニングできるかという研究.結果そのものも大事だが,こういう研究に付いてくるprevalenceも非常に有用.
20%が何らかの不安障害を持っていた.
全般性不安障害7.6%
パニック障害 6.8%
社会不安障害 6.2%
PTSD 8.6%
(重複があるため合計は20%にならない)

鬱の2-itemスクリーニングと同様有用なのは除外のようである
GAD-2においてスコア3以上で
何らかの不安障害に対して 感度 65% (57 to 71) 特異度 88% (85 to 90) LR+ 5.4 LR- 0.40 (これはむしろrule in)に有用
全般性不安障害に対してそれぞれ 86% (76 to 93) 83% (80 to 85) 5.1 0.17
後はそれほどでもないか.
あくまで参考値ということで.不安障害圏のDSM-IVの診断基準は覚えられない物も多く,複雑なので,その基準と照らしあわせをしてまでrule in/outが必要な症例かどうかをおおまかにつかむために使用する,という感じだろう

スコアリングの方法は
The 2 items asked patients how often over the last 2 weeks they were bothered by
(1) feeling nervous, anxious, or on edge and
(2) not being able to stop or control worrying.
それぞれについて全くないを0点 数日を1点 半分以上を2点 ほぼ毎日を3点として 0-6点の3点以上を陽性.

GAD-7という7つの質問の最初の2つだけにしてもそれほど診断精度は落ちなかった,という話.


4.
Section: Therapeutics
Michael J Barry
Review: evidence from 2 low quality screening studies does not show a reduction in death from prostate cancer
Apr 01, 2007 12: 40-40
延々続いている前立腺癌のスクリーニングの議論.2つのクオリティの低い研究でPSAスクリーニングによって死亡を減らせなかったという内容.PSAのスクリーニングでいつか学会のWSをやりたいと思っています.素晴らしい議論ができるtopicです.
ベースラインの死亡率もスクリーニング群の死亡率も8年目までで0.5%,15年目までで1.3%.有意差なし.
もちろんnegative studyなのでsample sizeが十分か本文に立ち返る必要があります.また,発見の時点で治療をしているかどうかは本文に立ち返って確認の必要があります.
「PSAをやって,その後前立腺の経直腸生検をやって仮に前立腺癌だったとしても8年間で死ぬのは200人に1人です.(それでもあなたは前立腺癌があるかどうか知りたいですか)」というと泌尿器科医に怒られるかもしれません.
もう一つの注意点はこの2つの研究では死亡しか評価していないこと.もしかしたら死んではいないけれど,スクリーニングしなかった群の方が,発見時点のstageがすすんでいて,転移や浸潤,より強い治療の副作用や合併症で苦しんでいるかもしれない.
この議論はまだまだ続く.アメリカでもヨーロッパでもイギリスでも大規模な研究が現在進行中.それぞれ介入は終わって,フォローアップの段階.
結論が出るまではやってもやらなくても正解(I recommendation by USPSTF)
キーワード:
The US Prostate, Lung, Colorectal & Ovary (PLCO) trial (effectiveness trial)
The European Randomised study of Screening for Prostate Cancer (ERSPC) (efficay trial)
The unique Prostate Testing for Cancer and Treatment (ProtecT) trial


5.
Section: Purpose and procedure
Purpose and procedure
Jun 01, 2007 12: 65-65
この雑誌がどのように対象論文を選んで,その質を吟味しているかについての方法論.日本語で同様のサービスを開始する場合は参考に

6-10までは次回以降に.

2008/05/12

    家庭医に必要な手技,手技の能力の評価と記録,hospitalistに必要な能力

STFMの年次総会より戻った.沢山の旧交を温め,多くの宿題とアイデアを抱えて.
発表の一部は既に共同の知識源に蓄積されつつある.FMDRL.org

多くの人のサポートを得て行ったので,こういう形で少しずつ還元しなければと思うがなかなか目の前の問題が片づかない.

奈義ファミリークリニックの松下先生とのコラボについては後ほど.

表題の件について.
2000年より10年計画で米国のレジデンシーすべてに義務化されたACGME outcome projectは要約それなりの成果を見せつつある.
そもそもToo Err is HumanというIOMの報告から始まった医療の質への意識向上は,「莫大な金と時間をかけて医師を育てているはずなのに何で医療の質が悪いの?卒前教育,卒後教育ちゃんとやっているの?」というpublicの当然の疑問に答え,保証する為の方法として卒後教育はoutcomes projectとなった.
要は「XX年 OO科の研修したから終了,その科の専門医」というのをやめて,安全に独り立ちできるレベルになったら(その道のエクスパートになったらではない)研修修了としましょう.そのために,それぞれの研修プログラムは修了生が安全に独り立ちできるような教育をしていることを証拠として出しなさい.というproject.

それまでhigh qualityの研修をやっているところはその明文化をすればいいだけのこと.そうでないところは,そうできるようにプログラムを変えていかないと卒後研修としてお墨付きがもらえないということ. 質の保証と向上.

印象として感じたのは,3年間家庭医の研修をして,その成果を慌ててかき集めることは無理なので,その都度,出来るだけ負担の少ない方法で,こまめに,その記録をためていきましょう.という流れ.(case log, procedure log, precepting log, portofolio)
そして,それをやっていくことが,結局自分のプログラムの修了生の品質証明(高い商品やペットに通し番号がついていたり,血統書がついていたり,認定マークが付いていたりするのと同じ)になり,それを分野全体でやることで家庭医療,家庭医の品質証明,アピールになるということ.

わかりやすく手っ取り早いものとしては手技がある.

STFM のgroup on Hospital Medicine and Procedural Trainingの発表で,最近発表になったconsensus statementの経緯とこれからについて聞いてきた.

論文はこれ

Required Procedural Training in Family Medicine Residency: A Consensus Statement

Melissa Nothnagle, Julia M. Sicilia, Stuart Forman, Jeremy Fish, William Ellert, Roberta Gebhard, Barbara F. Kelly, John L. Pfenninger, Michael Tuggy, Wm. MacMillan Rodney, STFM Group on Hospital Medicine and Procedural Training

(Fam Med 2008;40(4):248-52.)



領域毎に,core procedures for family medicineとして
A,B,Cにランキング AをA0-A2に細分化 (table 1)


A:すべての家庭医療研修プログラムがこの領域の手技の研修を提供する必要がある
A0:このレベルは,すべてのレジデントが医学部修了,もしくはレジデンシーの途中で出来るようにならなければならない,研修の証明や数の記録は不要
A1:全てのレジデントがこのレベルの手技が卒業までには独立して出来るようにならなければならない
A2:全てのレジデントがこのレベルの手技にふれ,卒業までには独立して出来るようになるための研修する機会を得られる必要がある.(必ずしも出来るようにならなくても良い)
B:このレベルは家庭医療の範囲内であるが,独立して出来るようになるためには数多く,集中した研修をする必要が生じうるもの
C: このレベルは家庭医療の範囲内であるが,独立して出来るようになるためには3年を修了後追加の研修が必要になり得るもの

例えば皮膚であれば
A0 瞬間接着剤での裂傷の修復
A1 単純な裂傷の縫合
A2 電気メスの使用
B ボツリヌス毒素
C 該当なし
といった感じ
麻酔ならCに硬膜外が入る

全ての表は論文でみられるの参考に.

どのようにconsensusを形成したかの基準となるのが
table 2

1.患者にとってより利益があるか.家庭医が提供することでその手技へのアクセスが格段に良くなるか.救命に貢献するか
2.その手技を教えるのに十分な指導医がいるか
3.十分な数の家庭医が(修了後も)その手技を実施しているか
4.症例が十分にあるか
5.経済的に妥当か.診療報酬は適切か,導入に必要な初期コストが安価か

非常に納得.

我々のプログラムは早速これをたたき台にリストを作ることにしました(手技の達成確認はやらないと,と半年前からスタッフの間で話題になっていたので,良いきっかけとなりました)

記録,報告の方法(logging)についてはやはり今回参加したセッションを参考に

「そのときに出来ない記録は,後では出来ない」ということで,すぐに出来ることを優先.

REDI - Real-time Evaluation of Doctor's Independence

このシステムを参考にとりあえず走り出してみることに.

最後に参考まで(特に総合診療の皆様へ).hospitalist movementに乗って,Society of Hospital Medicineがブースを出しており,そこで知ったのが,

The Core Competencies in Hospital Medicine

というリスト.オンラインでもみられます.


Section1: clinical conditions
Section2: Procedures
Section3: Healthcare systems
と分類されており,最後の所には

Care of the Elderly Patient 3.1
Care of Vulnerable Populations 3.2
Communication 3.3
Diagnostic Decision Making 3.4
Drug Safety, Pharmacoeconomics and Pharmacoepidemiology 3.5
Equitable Allocation of Resources 3.6
Evidence Based Medicine 3.7
Hospitalist as Consultant 3.8
Hospitalist as Teacher 3.9
Information Management 3.10
Leadership 3.11
Management Practices 3.12
Nutrition and the Hospitalized Patient 3.13
Palliative Care 3.14
Patient Education 3.15
Patient Handoff 3.16
Patient Safety 3.17
Practice Based Learning and Improvement 3.18
Prevention of Healthcare Associated Infections and Antimicrobial Resistance 3.19
Professionalism and Medical Ethics 3.20
Quality Improvement 3.21
Risk Management 3.22
Team Approach and Multidisciplinary Care 3.23
Transitions of Care 3.24

といった項目があるのが非常にバランスの取れたリストだな,と思いました.