あちこちで新型インフルエンザの情報ばかりで辟易と思いますが、
家庭医の視点で自分自身が勉強したことを共有とさせていただきます。
できるだけ間違った情報で混乱を招かないように、私の力の及ぶ範囲で正確を期していますが、複数の情報源(できるだけ公のもの)をあわせて利用ください。また間違いがありましたらご指摘ください。
Swine influenza A (H1N1) Outbreak in US & Mexico: Potential for a Pandemic
http://www.pitt.edu/~super4/34011-35001/3460102052009.ppt
http://www.pitt.edu/~super1/lecture/lec34601/index.htm
5/3時点でのupdateで英語で、かつ米国の視点ですが、比較的まとまっていましたので最後のサマリーと推奨について訳しておきます
但し書きとしてまだ最終バージョンではないので教育用に使用してくださいとのことです。
私なりの解釈を書いた上で要約をつけます。
最新の感染者数については,
WHO発表の確定例 (日本時間 2009年5月6日 9時現在)
http://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/case2009/090506case.html
を利用しました。(CDCではUpdate17もでているのですが)
また日本での季節性インフルエンザの感染率は
日本臨床内科医会インフルエンザ研究班のデータから
http://plaza.umin.ac.jp/~japha/influenza/index.htm
2005年から2006年にかけて、ワクチンを接種しない人のインフルエンザ罹患率は7%で、接種した人では3%でした。このうち15歳未満では非接種者の罹患率は18%、接種者では11%でした。
を利用しました。
まずわたしの解釈、強調部分(感染者数、死亡者数のシュミレーションはそれぞれの地域、医療機関のものを当てはめてみてください)
新型インフルエンザは実際の臨床症状や死亡率はどうやらこれまでの季節性インフルエンザと同様であるらしいということになりつつある。
ではそれでもなぜ問題になるかは以下の通り
1)ほとんどの人が免疫をもたないので感染者が一気に増える
最低でも7%(通常の季節性インフルエンザで過去の感染から免疫があるかもしれない人も含めてのそのシーズンで予防接種をしなかった人の感染率。15歳未満は倍以上)おそらくはそれ以上と考えられる。35%−50%程度という推測もある。
最低の7%としてもたかが5万人の館山市でも3500人の感染者がでる.しかも広がり方が早ければ通常の8週間程度かけてではなくもっと短期間に集中
実際に昨シーズンだけで3000本以上のインフルエンザワクチンを接種した当クリニック(外来受診一日平均170−180人)でもこの1−3月でインフルエンザ迅速キットを実施した患者さんが667人 キットでのインフル確定患者320例です。そこが最低ラインと想定するとそれ以上の数の受診(自分のクリニックで対応しないとしても特定の指定医療機関だけで対応しきれるでしょうか。間接的に地域の発熱外来に協力する形で対応しなければならないでしょう)
2)現時点での新型インフルエンザ確定例での死亡率(CFR;後述参照)からして
たかが5万人の館山市でも3500人の感染者で、メキシコを例外として除外してもも死亡率0.149%で.....(計算は皆さんでどうぞ)
死亡率そのものはそれほど高くないかもしれないが、多くの感染者が出る(母集団)ことで死亡する実数は多い。(通常の季節性インフルエンザでも、米国では毎年3万から5万が死亡します)
8週間程度の流行期間中に小さな地方都市でも死亡の出る疾患というとおおごとです。
3)attack rate(地域のどのぐらいの人が罹患するか)については不明ですが、日本の昨シーズンの季節性インフルエンザでは7%ですからそれ以上、幅が広いですが(ここからが根拠のない推測です)先述の35%−50%というattack rateの一番下のラインとして、自分の職場で職員の3分の1が罹患して解熱後24−48時間まで5−7日間仕事に出られないとなったらどうでしょうか。父ちゃんと母ちゃんでやっているガソリンスタンドは数日であっても営業できなくなる期間ができてしまう。地震、津波などの天災とはちがい、水、電気、ガソリン、公共交通機関などのそのものはなくならないかもしれませんが、attack rateが高い場合は供給を維持している人がいなくなるのです。当然町のジャスコやスーパーも閉まりますから備蓄が必要なのです。
そして医療機関でも同様に仕事に出られる人が少なくなります。
5/6時点
死亡率 (CFR:case- fatality rate)
世界 30/1490=2%
米国 1/403=0.248%
メキシコ 29/822=3.5%
メキシコ以外 1/668=0.149% (季節性インフルエンザとほぼ同程度とされる)
そして
基本的に水際政策は完全ではない(まとめ/推奨4)ので感染者は国内で出るのは時間の問題
重要な所抜粋
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今から3−5週間の間に北米では流行は収まってくる(flu ウイルスは高温や多湿では生存しないため。)(日本の場合はより多湿のためさらにその確率は高いかも;著者補足)
しかし秋にはより病原性の高いウイルスが第二波としてもどってくる
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をあわせると
GW明けには多くの疑い例が、そしておそらく確定例も十分に出うるが、今回はそれほど大きくならずに収束することもあり得ある。しかしそのまま南半球で流行をし、秋には第二波として病原性が高くなってもどってくる
それまでには現在のインフルエンザに対応したワクチンができるかもしれないがあくまでlaboratoryでの理論上の作成で臨床現場でどれだけ有効であるかは使ってみるまでわからない。また現在通常の季節性インフルエンザのワクチンか新型のワクチンかのどちらかで両方は作れない、という話になっているので(できるのではないかとおもうのですが)仮に新型には有効であったとしても、通常の季節型がワクチン接種されないために季節性インフルエンザがこれまで以上の流行をする可能性
そしてタミフルについても耐性が出る可能性は十分にある
ということで、幸い通常の季節性インフルエンザと同程度の臨床症状とされているいまのうちに各医療機関できちんとした対策と訓練を行い秋に備える。また一般の人たちにはワクチンとタミフルに頼らない感染防御策(マスク、手洗い、咳エチケット、自宅待機)の重要性を訴えておくというチャンスを与えられていると考えた方がよいでしょう。
また、最終的には感染が一回りすれば通常のAソ連型の一つ、ということになるのではないかと考えている専門家もいますし、今の程度の病原性なら一回皆がかかれば、という考えもあるかもしれません。たしかにおそらく多くの人が一度かからなければならないとは考えていますが、要は前述のように、一気に感染者が増えて社会機能が止まることが問題なので、感染者を出さないというよりは、感染防御策を徹底して「いかにゆっくりとした期間をかけて社会全体が交代で罹患するか」という視点で考える方が現実的かもしれません。
短期と考えている人も多いかもしれませんが、最低限秋のことがありますので(これもあくまで推測ですが)、1年以上の以上の長期戦と考えた方がよいでしょう。
最後に、今回は詳しく言及しませんが、
疑い症例の対応策ができ次第、
国内で蔓延期(前述のようにいずれくると思います)を迎えるまでに、いかに普段の診療を継続するか、特に家庭医としては自分のことをかかりつけにしてくれている患者さんの慢性疾患の診療を維持するか(働ける職員が減って、社会インフラが止まったときに)ということを、今のうちに考えておくべき時期です。
一般医療機関のための新型インフルエンザまん延期の診療継続計画作り(第2版)
http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/kenkou/influenza/090430-01.html
の参考資料3
が非常によくまとまっています。
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以下まとめ
43ページサマリー
•WHO raised the alert level to Phase 5
•747 confirmed cases worldwide (17 countries) with 17 deaths (Case-fatality ~ 2.5%)
•2,106 suspected cases worldwide (21 countries) with 149 deaths (Case-fatality ~ 7%)
•1,319 needed hospitalization
•
•US epidemiological data
•Median Age 16 years (range: 1-81 years)
•Over 80% of the cases in <18 years
•Male Female Ratio = 2:3
•
•In Mexico, healthy young adults, (20-50 years) affected by the disease
•
•Huge disparity of mortality seen between Mexico and other countries such as US
•
•No vaccine is available
•
•Anti-virals available:
•Oseltamivir (Tamiflu) or
•Zanamivir (Relenza)
•
•EU issues a travel advisory to the 27 EU member countries recommending “non-essential” travel to affected parts of the U.S. and Mexico be suspended
•
•US issued a travel advisory that recommends against all non-essential travel to Mexico
44−47枚目 結論と推奨
1. 第2波は必ず起きる 過去のpandemicからは第2波の方が死亡例が多い
その理由は ウイルス性肺炎、ARDS、二次性最近感染特に肺炎 幸い過去と違い抗ウイルス薬と抗菌薬はある
保証はないが、第2波までにはワクチンは間に合うのではないか
2. ほとんどの人はこのウイルスへの免疫がないため感染の拡大は続く。この先より多くの症例、入院、死亡はおこる
それぞれの地域で
サーベイランスの方法を強める
軽症の人の自発的自宅検疫を可能にするために、必要に応じて大量の重症の人を収容し、ケアを提供するための計画を作成する
それぞれの医療機関で、患者/有症状者が急激に増加したときの対応能力増加の対策と感染予防の徹底
一般の人は、通常のインフルエンザ予防の方法(手荒いうがいマスクなど)
3. 北半球では通常5月の最初までには流行は収まるが1957年のパンデミックでは若い成人の間で夏の間も散発的にアウトブレイクがみられた
そのことをふまえると
今から3−5週間の間に北米では流行は収まってくる(flu ウイルスは高温や多湿では生存しないため。)(日本の場合は多湿のためさらにその確率は高いかも;著者補足)
しかし秋にはより病原性の高いウイルスが第二波としてもどってくる
南半球(オーストラリア、ニュージーランド)では流行は継続する
4. 国境の閉鎖や旅行制限について
既に国境や大陸を超えてしまっているので国境閉鎖や流行制限は流行の自然経過には影響を与えない
2003年のSARSの際もこういった方策は無効であった(中国では1400万人が空港、駅、道ばたのチェックポイントで発熱の検査を受けたが疑い例を12例見つけただけであった。シンガポールでは50万人の飛行機利用客をスクリーニングしたがその方法で見つけることができたSARSの症例はなかった)
重要なのはこのような積極的スクリーニングではなく受動的サーベイランス(症状のある個人による報告の徹底)
6.学校の閉鎖(なぜか5が抜けています)
先制的に(preempitve)学校を閉鎖するのはほとんど流行を送らせることはない
いったん再開すると(通常永遠の閉鎖はできないので)そこで再度広がり始める(これは、季節性インフルエンザでも冬休みの間はいったん収まるが新学期になると何もなかったかのように再度広がり始めることを毎年経験しています:著者補足)
さらに、こういう方法は一人親で育てている場合には特に堪え難い負担を与え、究極的には経済的な打撃が大きい
大量の症例が出てからの閉鎖が最も適切(どちらにせよその時点では生徒や教師の欠席数も多く理にかなっている)(実際米国では数例の確定例での学級閉鎖はやり過ぎである、という勧告を出しています)
7. 翌年のワクチンには必ず現在のNorth American” (swine) influenza A(H1N1)に対応するものが提供できるように最優先すること
8. 現在カナダと米国においてメキシコへの渡航歴のない人ー人感染が報告されているので、ウイルスはNorth American” Influenza A(H1N1)と改名されるべき
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以上参考になれば幸いです
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