2009/06/30

    村上春樹 1Q84

村上春樹 同郷の人ということで親近感はあってもノルウェイの森以来、文体があわずにずっと敬遠しています。
今話題の1Q84、もちろんまだ読んでいないのですが、読売新聞でインタービューがあり、非常に興味深い込めとんとがあり、最近の私の考えと響き合うところがありましたので、引用します。

読売新聞2009年6月16日 インタビュー (上)

より

原理主義の問題にもかかわる。世界中がカオス化する中で、シンプルな原理主義は確実に力を増している。こんな複雑な状況にあって、自分の頭で物を考えるのはエネルギーが要るから、たいていの人は出来合いの即席言語を借りて自分で考えた気になり、単純化されたぶん、どうしても原理主義に結びつきやすくなる。スナック菓子同様、すぐエネルギーになるが体に良いとはいえない。自力で精神性を高める作業が難しい時代だ。

中略

ーーーー受賞スピーチ「壁と卵」で「個人の魂の尊厳を浮かび上がらせ、そこに光を当てるため」小説を書くと発言された。

作家の役割とは、原理主義やある種の神話性に対抗する物語を立ち上げていくことだと考えている。「物語」は残る。それがよい物語であり、しかる心の中に落ち着けば。例えば「壁と卵」の話をいくら感動的と言われても、そういう生のメッセージはいずれ消費され力は低下するだろう。しかし物語というのは丸ごと人の心に入る。即効性はないが時間に耐え、時と共に育つ可能性さえある、インターネットで「意見」があふれ返っている時代だからこそ、「物語」はよけいに力を持たなくてはならない。
テーゼやメッセージが表現しづらい魂の部分をわかりやすく言語化してすぐに心に入り込むものならば、小説家は表現しづらいものの、外周を言葉でしっかり固めて作品を作り、丸ごとを読む人に引き渡す。そんな違いがあるだろう。読んでいるうちに読者が、作品の中に小説家が言葉でくるんでいる真実を発見してくれれば、こんなにうれしいことはない。大事なのは売れる数じゃない。届き方だと思う。


引用ここまで

どうやら1Q84は、これからの時代ますます「物語」が必要になる。その主翼を担うのが作家だという主張に基づいた、「記憶に残る物語」を強く意識した作品のようですが、この「物語」とはナラティヴ(narrative)、もしくはストーリーのことです。そしてその重要性は家庭医療の世界ではずっと前から言われてますが、それ以外の分野でずいぶんと言われるようになってきています。

最近読んだ、
「健康によい」とはどういうことか―ナラエビ医学講座
で、再度evidenceとnarrativeの統合をどのようにとらえるかについて考える機会を持つことができました。2−3時間で読めますが、非常に頭をすっきりとさせてくれるものでした。

著者はナラティヴ3年エビ8年かかると言っています。僕はエビよりもナラティヴにずっと時間がかかっています。
著者の立場はNBMとEBMは補完、並立するものではなく、ナラティヴがEBMを包含するという考えです。これで行くと非常にうまく行く気がします。

そしてナラティヴは家庭医療の基本です。そのことは最近読んだMcWhinneyに非常にパワフルなナラティヴによって記されていました。
mapとterritoryの話。また追って紹介できることと思います。






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