2008/03/03

    American Family Physician(Online Journal)がアクセス出来なくなる日

AAFP (American Academy of Family Physicians:米国家庭医学会)
より封書が届いた。以下要約。

会員の利益と価値を高めるために以下の変更が生じるので承知置き下さい。
4月1日をもって雑誌American Family Physician: AFP,およびFamily Practice Managementのonlineアクセスを発行から12ヶ月間は会員限定にします。(log-inが必要とのこと)
12ヶ月経過後はほぼ全文がオンラインでアクセス可能になります


Family Practice Managementに関しては
会員に対しての印刷版は会員限定のページを8ページ余分につけます
また,外来が中心でない会員に対しては,リクエストがない限り印刷版の発送を中止します
----------(ここまで)-------------------

見てすぐの感想は「残念」ですが,落ち着いて考えてみるととっても難しい問題ですね。
良くも悪くも現在の診療で生じる殆どの疑問の解決のソースはAFPです。またレジデントからの質問にも要点を答えたあと「あそこによくまとまっているよ」と紹介する情報源の多くはAFPです。それだけ,家庭医の診療と最もマッチした分野,内容,ニュアンスで書かれており,その妥当性や信頼度,evidence leveleについてはまだまだ改善の余地はあるものの,2004年からは家庭医療関連の雑誌で共同声明としてStrength of Recommendation Taxonomy (SORT) というevidence level, recommendation levelの統一記載方法をまとめ,著者は違えどそれに乗っ取ったまとめを載せるように心がけており,私にとっては簡単に復習をする方法として非常に役に立っています。何より無料でonlineで見られることがその価値の高さだと思っています。
なぜならそれはfidelity(もしくはエビデンス診療ギャップ)の壁を取り去る一つの方法だからです。
米国に渡る前,AAFPには入会も認められませんでした。まだインターネットがそれほど普及していなかった当時,AFPを読むには家庭医の指導医に貸してもらうか,医学図書館に行くしかなかったのです。
実際の会員の何倍もの人が世界中でAFPの文献に(偶然も含めて)遭遇し,それに従って診療を変えてきているはずです。それが12ヶ月のタイムラグを生むことになるとどうなるか。。。
実際12ヶ月遅れてがらっと内容が変わるような医学知識の発展は年に数回あるかないかで,それ自体は問題にならないと思われますが,最新のものがみられないようになって,臨床家の検索対象情報源の選択枝として意識下での優先順位がだんだんと下がっていくことの方が懸念なのです。

一方会員は高いお金を払っています。
active memberは年$330(international memberは$110)
これらの人たちが,年会費の分だけ自分たちにそれなりの見返りを,ということになるとやはり学会としては何らかの対応を迫られます。
雑誌を年20冊発行するには大変な資源が使われています。
今無料のアクセスが出来る状態では会費をさらに上げるということは無理でしょうし,やはり会費の額はお金を払う人とそうでない人とが得られるものの違いに見合ったものでなければならないのでしょうから,その差が小さいからといって,会費を値下げすることは考えにくいでしょうし,今回の決断となったのでしょう。

私も学会の理事をしていたり,自分で会費を取ってHANDS-FDFなる指導医養成コースを運営する立場ですので,

大事なことは出来るだけ多くの人に(fidelity)知ってもらいたい,患者さんに最終的には還元したい

ということと,

お金を払う人の見返り

のconflictのなかで,非常に難しいと感じるしかないのです。

さてこの情報を中心としたチープ革命の時代にどうやって情報の持ち主はそれに価値を持たせ,かつその情報から得られる利益を出来る限り多くの人へ届けるという対立概念を両立させればよいのでしょうか。

今回の決定が裏目に出ないことを祈るばかりです。

ちなみにこの通知はまだAAFPのHPでは見つけられませんでした。いっぱい反対が出るのを心配してでしょうか。

0 コメント: