2011/03/22

    これが世界のスーパードクター14 TBS系 2011年3月22日(火)よる9:00から

これが世界のスーパードクター14
2011年3月22日(火)よる9:00から
http://www.tbs.co.jp/program/superdoctor_20110322.html
をごらんになった皆様へ

このエントリーは番組の放映前に作成し公開しています。取材段階から編集まで担当のディレクターの方と念入りにメールと電話のやり取りはしましたが、実際の映像は一度も見ておらず、私自身も最終的にどのような内容が放映されるのかは知りません。

多くの視聴者の方が今夜の番組を見て、このページにたどり着いたのではないかと思います。

なるべく、シンプルにメッセージをまとめておきたいと思います。言い訳のようなものですが。

私自身はスーパードクターだとは全く思っていません。自分よりも優れた家庭医は日本中にたくさんいます。家庭医だけでなくそのほかの分野の医師も含めたくさんの人が被災地で被災者のケアに取り組んでいます。また、被災地以外で多くの家庭医、プライマリ・ケア医と呼ばれる人たちが日本中の人の日常の健康を守っています。今回は僕自身がスーパードクターとして取り上げられた,というよりは、そういった日本中の家庭医の代表として、「たまたま」取り上げられることになったのだと思っています。
ただ,当然家庭医としての自分自身の仕事には誇りを持っており、ベストを尽くしています。他の医師よりも良い医療が提供できるよう日々努力しているつもりです。
今回取材の方は何日にもわたって長時間の映像を撮影くださいました。ただ,あくまで取材の承諾をして下さった患者さんの映像だけであり,しかも放映されたのはその中から抜き出した数分にしかすぎず、私の家庭医としての仕事のほんの一側面だけを表しているにすぎません。
そのこともご理解いただければと思います。

何でこの人がスーパードクターなの?という感想を持たれた方。 可能性は2つあります。ひとつは番組で取り上げられた他のスーパードクターたちは、その「すごさ」が比較的わかりやすいために、相対的に「わかりにくくなってしまった」「見劣りしてしまった」可能性。(後述)もうひとつ、「私のかかっている先生もこのぐらい出来る」と思った方、実はあなたはとてもラッキーです。意外とそのようなレベルの医療を提供できる医師は多くないようです。(これも後述 P.S.へ)

開業医と何が違うの?という感想,疑問をもたれた方。お願いがあります。家庭医と開業医を比較して論ずることはできません。別の分類方法である事を理解ください。家庭医はその専門分野を表現する言葉であり、その働き方として勤務医の場合もあれば開業医の場合もあります。一方開業医は、個人事業主という事業形態の表現にすぎず、眼だけをケアする眼科の開業医や、皮膚だけを診る開業医もいます。もちろん開業医をしている人たちの中に優秀な家庭医もたくさんいます。
開業というのは医療の専門分野の名称ではありません。開業医のなかに家庭医はいますが 開業医=家庭医ではありません。また家庭医には勤務医もいます。私も医療法人のサラリーマンです。
どうか「開業医は」とひとくくりで様々な医師集団をまとめて論じないで下さい。(経営方針的には開業医と勤務医で論じることはできるかもしれません)

この人すごい! という感想を持って下さった方、そのような評価を頂き感謝致します。あなたは素晴らしい感性の持ち主です。もしくはいろいろな事情でたくさんのドクターにかかる経験があって,医師の技術の微妙なレベルの違いがわかるようになったのでしょう。ただ,最初にも書いた通り、私よりも優れた家庭医,私の尊敬する家庭医はたくさんいます。家庭医療,プライマリ・ケアを専門とする医師集団は既に日本にあり、専門医制度も始まっています。

日本プライマリ・ケア連合学会
http://www.primary-care.or.jp/

そして,全国の同志が連携をとりながら、直接,間接的な形で被災地への支援を進めています。

日本プライマリ・ケア連合学会 東日本大震災支援プロジェクト PCAT
http://pcforall.primary-care.or.jp/

そのような医師が日本にもっと必要だと考えるかたは、行政へ、医師会へ、地域の基幹病院へ、ご意見の形で、また選挙の投票を通じて、家庭医を増やす要望を声としてあげて下さい。

もしかしたら、番組の中で脳腫瘍を見つけることになる患者さんの事例が取り上げられるかもしれません。初期診断は我々の重要な仕事ではありますが、どちらかというと,日常の仕事におけるその割合はそれほど大きくありません。(後述)診断の専門家は神様といわれるような人が日本中にいますし、同じTBS系で最近放映されたドラマ 踊れドクターGM http://www.tbs.co.jp/GM-odore/ の監修をされた千葉大学の生坂教授もその一人です。
あの脳腫瘍は、いずれは誰かが見つけるものだったのだと思います。たまたま私がそのタイミングだったのでしょう。患者さんにも助けられました。医療は患者さんとの共同作業ですから、私一人でやったのではありません。

私にかかりたい,私の診療を受けたいと思った方、ありがとうございます。とても光栄に思います。でも、私が診療をしている千葉南房総から遠い方は,無理しないで下さい。良質な家庭医療は、定期的に,長期間診せて頂き、医師ー患者関係以上、友人家族未満という(柳田邦男氏が1.5人称の医療,という表現をしましたが)人間的な関係を前提として成立します。そして、家庭医療,プライマリ・ケアの質は、医師の質もさることながら、距離的、時間的にかかりやすい事、ちょっと思い立ったらかかれる事(アクセスといいます)の質が大きく影響します。遠くの超名医より近くの良医を探すことを優先して下さい。そして今かかっている先生に大きな不満がないのであればその医師との関係を大切にして下さい。
繰り返しますが、私と同じレベルで良質の家庭医療、プライマリ・ケアを提供できる医師は全国にたくさんいます。

さらに分野に関わらず、全国には名もなきたくさんの医師たちが、また医師だけでなく多くの医療従事者(看護師、リハビリ,薬剤師、事務員など)の全てが、それぞれの立場でそれぞれの出来ることが何かを考え、目の前の患者さんにベストを尽くしています。(ごく稀に困ったさんはいますが,例外的です)
医療は人間同志の相互作用です、あなたからの働きかけにのやり方によっては、現在の先生から得られる医療の質がさらに良くできる可能性を秘めています.あなた次第であなたの主治医をスーパードクターにする事も可能なのです。(心付けとか袖の下、の話ではありません,念のため。 COMLの『新・医者にかかる10箇条』を紹介しておきます http://www.coml.gr.jp/10kajyo/index.html )

家庭医療,プライマリ・ケアをわかりやすく短時間の映像にするのはとても難しいことです。そして「医療の質」を判断するのもとても難しいことです。その理由は別エントリーで詳しく書きたいと思いますが、取材の松原さんも一生懸命,ともに悩んで下さいました。すこしだけ書いておくと、家庭医の力量は「何も起きない事」で示される。本当に優秀な仕事をする警察、消防のある地域は、大きな犯罪や事故、火災は起きない訳ですそして,力量の差は10年、20年後に現れるからです。これですこし、他の医師との「腕の見せ所」が違う事をご理解いただけますでしょうか。

私がこれまでに書いたものをすこしだけ紹介しておきます。私がどのようなことを考えて家庭医という仕事に取り組んでいるか,もう少しわかって頂けるのではないかと思います。

http://www.scribd.com/collections/2457718/MMJ-column

最後に、年末の仕事納めの後にも関わらず館山まで会いに来て下さり,その後もカメラなしの下取材から何度も何度も館山に足を運んで頂き、丁寧な取材を重ね、出来るだけわかりやすく家庭医療を映像として伝えられるよう尽力くださった担当の松原様にはこの場を借りてお礼申し上げます。
2、3日前、編集終了直後の松原さんからのメールの一部をここに転載しておきます。

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今回は、今まで一番多くのスーパードクターが紹介されているようです。という事で、沢山のSDが、紹介されており、尺(時間)も、非常に短くなってしまいました。私も、岡田先生パートの事しか、わからなかったのですが、昨日、一昨日の1本化の作業で、ようやく全体像を見た次第です。

ご想像通り、手術や「手術前、手術後」の変化があまりに大きい、ドラマティックなものは、どうしても大きな扱いになっており、岡田先生を取材させて頂いた私としては、個人的に非常に残念なのですが、如何せん、トータル的なバランスという点で、尺が短くなってしまったのだと思います。

ただ、多くの人に見ていただける番組ですので、まずは「家庭医とは」とか「家庭医って必要」という意味で、世の中に対しての第一弾のメーッセージとしては、よいチャンスだと思います。

松原 ◯子

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P.S. 取材の松原さんには繰り返し,様々な場面で「普通の医者はそこまで聞かない」「普通そんな事しない」と何度も言われました。その度に、「僕は普通と思ってやっています」「僕の知っている家庭医も普通にそうすると思います」と答えた訳ですが、自分がやっている事は自分がやるべき普通のことと思ってやっているので、それが他の医師と比べてどうなのかはわからないのです。ただそのあたりに、「家庭医」の専門性の秘密が隠されているのではないかと思っています。

1 コメント:

松原 さんのコメント...

取材をさせていただきました松原です。
この度は、先生、クリニックスタッフ及び患者の皆さま、ご家族の皆さま、ご協力頂きありがとうございました。

何度も取材をさせて頂き、撮影も何日もさせていただきました。しかし、放送はほんの一部になり、すみません。どうしても実際の放送は、究極の選択になってしまい、少ない分量となってしまいます。ご協力頂いた皆さま、すみません。

放送でご紹介出来なかった部分を少し、ここでご紹介させていただきます。
まず、取材を通じで感じた事は『診療時間が長い。』『患者さんのバックグラウンドや日常生活まで、よくご存知』という事でした。
あと、患者さんには直接関係ないかも知れませんが、スタッフの方々に対して、凄く腰が低い・・・・という点です。


患者さんのお話も聞いていたのですが、放送でご紹介できんかったので、少しここでご紹介します。「岡田先生は、どんな先生ですか?」という質問です。2~3ご紹介します。「先生が、もしここを辞められたら、この先私たちはどうしていいか、わからない。それだけが心配。」とか「とにかく、弱い立場の患者の気持ちを考えてくれるやさしい先生です。」とか・・・・このこの返答に、私は少々いじわるな質問を付け加えました。「でも、いい人だけじゃダメですよね。お医者さんは、医療技術や質も求められますよね?」と。すぐその患者さんは付け加えました。「その辺は、私にもわかりますよ。ちゃんとしてるかどうか。」と。きっちり医療的な質も評価されていました。
また、ある若い患者さんは、診察の時間に、クリニックにTVを寄付するという話をされていたので、後で詳しく聞いてみたら「とにかく先生には、心身ともずっと診て頂いて救われました。すごく、お世話になったので、何か恩返しがしたかったのです。」と。そして、待合室で待っている時、クリニックのTVが『地デジ』対応じゃなかったので、『地デジ』対応のTVを寄付することにしたという事でした。
また、お子さんの診察では、必ずと言っていいほど予防接種のお話をされていました。
予防接種は、先日も報道されていたように「予防接種」の後に亡くなったという報道もあり、素人である親には、心配な事や不安な事も多いですよね。でも、別の診察の時に患者が多くて忙殺されていると思われる医師になかなか質問ってできないですよね。そういう中、医師の方から予防接種の話をふってくれると、非常にありがたいと思いました。

取材者として、国内外を問わず本当に多くの医療現場を取材していますが、「近くに居て欲しい先生」です。
医療事故や医療過誤の取材の場合は、びっくりするような医療従事者もいますが、取材でお会いする先生たちは、本当にすばらし方が多いです。しかし、一市民としては、なかなかそういう先生に巡り合えません。
例えば、外科医や専門医は、まだこちらが探して足を運べますが、日常の「何でも相談でき、診てくれる先生」というのは、近くにいてくれないと困ります。

たしかに先生も書いておられますが、私をはじめ、カメラマンも「普通じゃないですよ。」という言葉を連呼した記憶があります。
そのたびに岡田先生は「普通の事ですよ。医者だったら当然の事だと思いますけど。」と。この辺のギャップが、今の日本の医療現場の現状を物語っているのだと思います。
都会では多くのクリニックがあり、一見、恵まれてるようですが、意外と多くの人が「信頼できる医療者」探しをしていると思います。

だから「なんでも相談でき、医療の質も高い家庭医」の存在は、安心して生活できるようにするには不可欠なのです。

家庭医先進国、アメリカで発表されたデータによると、25歳以上の成人で、臓器専門医を主治医とした人と家庭医を主治医としていた人を比べると、医療費は33%低くなり、死亡率も19%低く、
また、人口10,000人当たり、家庭医が一人増える毎に死亡率は、1,44人減少したというデータがあると、岡田先生から教えて頂きました。
説得力のあるデータです。



放送が、少しでも日本の医療が良い方向に向く一助になれば、取材者としてこれ程嬉しい事は、ありません。

それから、TVではご紹介出来ませんでしたが、この取材で出会いました北海道松前町の町立松前病院院長の木村眞司先生。この先生も「うちの町にもいて欲しい家庭医の先生」のお一人でした。