前述のエントリーで引用したACGMEのprogram requirementのManagement of Health Systems/ Practice Management関する部分、読み直していましたらショッキングなことに気づきました。
以下全文の原文を載せて日本語でコメントを入れます。()の中は私のコメント
Management of Health Systems
must receive at least 100 hours of management and leadership instruction to include both the didactic and the practical settings.
実践と講義を含めて100時間(これは前から知っていた)
This curriculum should prepare residents to assume leadership roles in their practices, their communities, and the profession of medicine. The residency must have specific strategies to demonstrate that residents have mastered these skills.
医療機関、コミュニティー、医療プロ集団の中でのリーダーシップがとれるよう準備させなければならない
その技能が習得したことが証明出来るよう意図された方略が必要
(これは,プロジェクトのポートフォリオ/卒業課題が最適)
The FMC must be considered the primary site for teaching management and leadership skills, and should serve as an example on which residents may model their future practices.
家庭医療センターがその教育の主たる場所として考慮されること。そして彼らの将来の仕事場のモデルとして機能すること。
Each resident must receive reports of individual and practice productivity, financial performance, patient satisfaction and clinical quality, at least quarterly, as well as the training needed to analyze these reports. Residents must attend regular monthly FMC business meetings with staff and faculty to discuss practice-related policies and procedures, business and service goals, and practice efficiency and quality.
各レジデントは少なくとも四半期ごとに、その診療の生産性(時間あたり患者数)、経済的なパフォーマンス、患者満足度、医療の質についての報告書を受け取るべき(その読み方についての教育と併せて)
運営に関するビジネスミーティングには参加しなければならない(済)
They must participate in projects to improve the quality of care and service delivered to the FMC patient population.
センターのケアする患者集団に対して提供される医療の質を改善するプロジェクトに参加しなければならない。(なんとなく済)
The management curriculum should include current billing practices, designing and managing a budget, assessing practice staffing needs, the impact of new technologies on practice, determining value in the marketplace, assessing customer satisfaction, measurement of clinical quality, tort liability and risk management, office scheduling systems, computers in practice, alternative practice models, and employment law and procedures. Residents should also learn principles of public relations, media training, and personnel management.
マネジメントのカリキュラムは以下のものを含む必要がある
請求、予算計画の策定と管理、職員人員確保や配置の必要性の判断、新しいテクノロジーが診療に与える影響、市場に置ける価値の測定、利用者満足度の評価、医療の質の測定、医療過誤についてのマネジメント、診療時間とシフト作成、診療におけるコンピュータ、他の診療モデル、労働法と運用
また、PR(広報活動)、メディア、自己管理の原則についても学ぶ必要がある。
The leadership curriculum should include training to provide leadership for a clinical practice, a hospital medical staff, professional organizations, and community leadership skills to advocate for the public health.
リーダーシップのカリキュラムは
医療機関、病院のスタッフ、プロ集団のそれぞれに対してリーダーシップを発揮するトレーニングとともに、公衆衛生を擁護するためのコミュニティーに置けるリーダーシップについても含む必要がある。
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米国のカリキュラムが全てではありませんが、もう少しこういったことも意識してレジデントに要求していきたいと思います。
診療のパフォーマンス(質,満足度、生産性,売り上げ)の個別フィードバックについては、同僚同士で関係がぎすぎすする可能性もありますし,注意深くやる必要はありますが、いやがるかもと思ってやっていなかったということもあります。大義名分が出来たので少し取り組んでみようかと思います。
2010/03/27
Management of Health Systems/ Practice Managementについての気づき
2010/03/26
医師は経営を教わらない? Management of Health Systems/Practice Management(診療所運営)という分野
ものを書くには「こんなことが世の中に向けて言いたい」ということがある程度たまってくることが必要で、そのエネルギーを書くエネルギーに変えることで書けるのですが、twitterにて小出しに主張(ここ)していると、「ガス抜き」というか,そのような状態になってblogを核エネルギーがたまらない,という印象です。去年からがくんと執筆のペースが落ちてしまいました。ストレスはためずにこまめに発散が良いのですが(夫婦喧嘩も),執筆はその逆の方が良いような気がします。
twitterのなかで、医師が経営、運営を学ばないというコメントがいくつかありました。
日本の場合医療機関の院長は医師である必要があるという縛り,一方で問題意識の高い医師が積極的に求める以外はマネジメントについて学ぶ機会がない、ということが関係あるかどうかはわかりませんが、多くの中小病院が経営難に陥っています(診療報酬の問題もあるのでしょうが)
米国の家庭医研修ではその研修中にPractice Management(診療所運営)と呼ばれる分野を必ずカバーすることが要求されています。
ACGME program requirement for family meidicine
の31ページ前後
全て抜き書きしておきます(個人的には,知らない間にManagement of Health Systemsと書き換えられていたのが興味深いです)
Management of Health Systems
must receive at least 100 hours of management and leadership instruction to include both the didactic and the practical settings.
This curriculum should prepare residents to assume leadership roles in their practices, their communities, and the profession of medicine. The residency must have specific strategies to demonstrate that residents have mastered these skills.
The FMC must be considered the primary site for teaching management and leadership skills, and should serve as an example on which residents may model their future practices.
Each resident must receive reports of individual and practice productivity, financial performance, patient satisfaction and clinical quality, at least quarterly, as well as the training needed to analyze these reports. Residents must attend regular monthly FMC business meetings with staff and faculty to discuss practice-related policies and procedures, business and service goals, and practice efficiency and quality.
They must participate in projects to improve the quality of care and service delivered to the FMC patient population.
The management curriculum should include current billing practices, designing and managing a budget, assessing practice staffing needs, the impact of new technologies on practice, determining value in the marketplace, assessing customer satisfaction, measurement of clinical quality, tort liability and risk management, office scheduling systems, computers in practice, alternative practice models, and employment law and procedures. Residents should also learn principles of public relations, media training, and personnel management.
The leadership curriculum should include training to provide leadership for a clinical practice, a hospital medical staff, professional organizations, and community leadership skills to advocate for the public health.
さらに具体的には、研修中に学ぶことの概要として
Recommended Curriculum Guidelines for Family Medicine Residents
に公開されていますがその中に、
Management of Health Systems (Practice Management)
という分野があります。
同様に診療所運営ですが、医療の質管理の側面は
Practice-based Learning and Improvementという領域として別に設定されています(前述の2つのリンク参照)
Recommended Curriculum Guidelines for Family Medicine Residentsの方は,そのときの最新のものが日本語版として翻訳されています(その後英語の方は順次改訂されているので注意)
日本でも後期研修としての家庭医育成プログラムは数が増えてきましたが、
その認定要件の元となる、特定非営利活動法人 日本家庭医療学会 認定 後期研修プログラム(バージョン1.0)(PDFファイル)のなかでも、全ての医師が備える能力として、(3)組織・制度・運営に関する能力のなかで定義されています。
もちろん「知っていること」と「できること」は別で、特にマネジメント,リーダーシップなどの領域は、実際にリーダーや経営者になって実践してみないと絶対にわからないこと,学べないことがあるのは事実ですが、事前に知識や、起こりうる問題に対する解決法を想定して望むのとそうでないのとは雲泥の差があります。
こういった領域はビジネスや組織開発など多領域にまたがるため、同じ内容のものが様々な名前で呼ばれています。ビジネススキル,と呼ばれる場合もあり、以前,医師もそのようなスキルを学ぶ必要がある、という趣旨の執筆をさせて頂きました。
2008/12/03 JIM 特集 医師のためのビジネス・スキル
ここで,読めるようにしてあります。
改めてprogram requirementを読み返して、気づいたことがいくつかありますので、別エントリーにて。
2010/02/15
第5回 若手家庭医のための家庭医療学冬期セミナー 家庭医療のそもそも論
表題の件 昨日無事終了しました。
2月14日(日) 9:00~10:20 第5回 若手家庭医のための家庭医療学冬期セミナー【二日目選択WS】家庭医療のそもそも論
8. 家庭医療のそもそも論
人間は自分が見聞したものの中でしか語ることが出来ません。自分が少数派と して日本に生まれ育ち、家庭医療に出会い、少数派として渡米して、Faculty Developmentと公衆衛生に出会い、帰国して研修医達と7年程家庭医療をやった、 その過程で、自分なりに「家庭医療とは」と考え続けてきて捻出したキーワード を紹介しながら、改めて「家庭医療」について考えるコアな会になれば,と思い ます。正解や簡単な解決法を知りたい方には向かないと思います。ネットにつな がるPCやiPhone所有者の方はたくさんいらしてください。皆さんにtwitterやfacebook などのSNSで実況中継をして頂くという社会実験をしてみましょう。事前にアカウ ントの取得と使用法の習熟をお勧めします。Twitterでのハッシュタグは #okadafmです。楽しみにしています。
●キーワード:家庭医療学 twitter facebook 理論的基盤
という形で、最近流行のtwitterによる同時に現場にいない人からも発言を頂きながら,結果的に記録も残せるという方法を実験的に試してみました。
現場の参加者の皆さんには、さえずり(tweet)よりは自分自身の学びを優先して下さい。とお願いしましたが,それでもたくさんの人がtweetして下さったおかげで外部からのからみをたくさん頂き,盛り上がったのではないかと思います。
今回は動画中継のUstreamまでは技術的に間に合わなかったので,次回への課題としたいと思いますが、もうひとつは、参加費を払って現場にいる人と,無料でネットで中継を見ている人との不公平感をなくすための配慮も必要なのではないかと思いました。(ライブにはかなわないとは思っていますが)
現在も成長しつつけているtweetのログは以下で見ることができます。(まだ増えていると思うので,その都度読み込みの更新をお願いします)
個人的には議論の時間を十分確保できなかった,などの反省はありますが、とにかく新たなちゃんねるでの取り組みの第一歩が踏み出せたということで、今後の展開を楽しみにしたいと思います。
現場での参加のみなさま、tweetでの参加のみなさま大変ありがとうございました。みなさまにとっても学びとなっていれば幸いです。
オリジナルログ(時系列的に逆です)
http://twitter.com/#search?q=%23okadafm
http://kiwofusi.sakura.ne.jp/hashtag/info.cgi?name=okadafm
ログ出力
こちらは時系列で追うことができます。
buzztter
2010/01/20
タバコと環境
以前環境/エコ系のイベント(http://awaour.blogspot.com/)とコラボで出させて頂いた禁煙サポートのブースで健康のことに一切触れずにタバコの害を訴えよう,というコンセプトで作成した資料です。
「あなた自身の健康のために」といっても全く関心を示さない人が「孫のために」「赤ちゃんのために」というと行動変容を起こしてくれる場合がある,という経験から、最近の環境への関心と絡めて「自分のため」ではなく「環境と世界のために」禁煙をと訴えることで、これまでメッセージの届かなかった集団に訴えかけられるのではないか,というのがそもそものきっかけ。調べてみるといろいろありました。
こんな視点から禁煙を訴えるのもアリでは?
自分の健康は自分の好きにするとしても環境に対しては他者への責任が生じるのではないでしょうか。
追記:「自分自身のため」以外の方法として、なかなか検査や薬の増量、通院など納得されない人に、確立された医師患者関係を意図的に利用して,「今回は僕の顔を立てて〜してもらえませんか」という頼み方も家庭医ならではかなと思います。時々利用します。使いすぎるとパワーハラスメントになるので注意。
タバコと環境
2010/01/15
病歴と身体所見でここまでわかる! 総合医スキルアップセミナー 11月ケースカンファレンス 水痘の7歳男児
恒例の総合医スキルアップセミナーの期間限定公開です。
※2009年11月29日東京都内で収録
この映像は、医療の向上に役立てていただく目的で、
主催者の御厚意により、期間限定で配信しております。(1月28日まで)
病歴と身体所見でここまでわかる! 総合医スキルアップセミナー
ケースカンファレンス担当
C&R グループビル2階大会議室 〒102-0083 東京都千代田区麹町二丁目10番9号
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/special/career/jamep/
のシリーズ。
ケース 水痘の7歳男児
症例提供:岡田唯男氏
2009年11月29日東京都内で収録
実際の映像とスライドはこちら
なんとタイトルから診断名が「水痘」と書いてあります。
といったら当日は受けていましたが、結構まじめにスライドの最初に書きました。私の考えではこの総合医スキルアップセミナーでは扱う内容が
成人への偏重
診断への偏重
と感じていました。特に2つ目の診断の偏重では書籍や雑誌でもそうなのですが、いわゆる臨床決断というと主訴や病歴から,問診,診察を駆使して正確な診断にたどり着く、という「診断当てゲーム」的なものが多いですね。もちろん正確な診断があってよい治療が出来るのですが、臨床,特にプライマリケアの現場は
1. ほとんどが診断には困らない(感冒、胃腸炎、高血圧、糖尿病などなど)
2. もしくは診断は調べても解らない(不定愁訴という意味ではなく)が自然経過で症状がなくなってしまう
ものばかりで、
逆に
診断はわかっているが治療がうまく行かない (アドヒアランスの問題、その他)
患者の受診理由以外に提供しなければいけない医療ニーズがある(患者本人の認識しないニード)
診断をはっきりさせないまま診療を継続する必要がある
などの診断以外の臨床決断という高度なサイエンスとアートが要求される事例は多いのですが、それらに日が当たることが比較的少ない、ということを主張する意味もありましたし、むしろそれらの方が家庭医の診療の大半を占めるからより現実に即したケースカンファレンスをやりたい。ということもありました。
水痘の子どもを本当の意味で包括的に診るということはどのようなことなのでしょうか。風が吹けば桶屋が儲かる的な展開と結末ですが、実際に私が対応した症例と対応した内容ほぼそのままです。お楽しみあれ。
2010/01/14
ジェネラリストセミナー〜1日家庭医追体験記〜(名古屋)1/16
今週末16日(土曜)
名古屋で医学生の皆さんを中心に家庭医療の魅力についてお話しさせて頂きます。
私の話を聞いたことある方にはいつもの話ですが、私なりの家庭医療の魅力について聞いてみたい方はぜひご参加ください。
学生さんが作ってくださった告知内容をそのまま下記に添付します。
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◎ジェネラリストセミナー〜1日家庭医追体験記〜◎
今、医療先進国日本に足りない医療がある
専門分化の推進の中、分化されたのは分野だけでなく、患者さん
であった
患者さんを疾患ごと一人の人間として「診る」
その本当の意味を問うー
【日時】1月16日(土)
【場所】名古屋市立大学病院 研究棟 2階 臨床セミナー室
※地下鉄桜通線「桜山駅」下車三番出口目の前
【タイムスケジュール】
16:00〜開場
16:15〜17:00
アイスブレイク&家庭医て何?ディスカッション
17:00〜18:45
岡田唯男先生による1日家庭医追体験記
19:00〜21:00懇親会(希望者のみ)
【主題】
「家庭医の視点を追体験する」
家庭医は患者さんを診療する際に、診断や治療は当然ですが、それ以外に多くのことを考慮しながら診療しています。
とある症例を通じて家庭医が診療をしながらどのようなことを考がえているのか、それを皆さんに追体験して頂くことで家庭医の視点というのを感 じてもらえれば と考えています。
【講演者】
鉄蕉会 亀田ファミリークリニック院長
岡田唯男先生
米国で家庭医療学のレジデンシーを修了後、指導医となるため研修(フェローシップ)と公衆衛生大学院を並立して修了、
2002年亀田メ ディカルセンター入職。
2006年6月より家庭医療の実践、研修、研究の場として開設された亀田ファミリークリニック館山の院長。プライマリケア(家庭医療学)の専門家、卒後教育の専門家として院内外で活躍中。
【セミナー費】
学生500円
研修医・医師1000円
【参加方法】
fmzemi◯yahoo.co.jp (◯を@へ変更)
に
◎氏名
◎所属(学年含む)
◎懇親会への参加の有無(別途食事代を徴収いたします)
◎家庭医に関して一言
をご記入のうえ、 ご返送下さい。
2010/01/11
The Family Medicine Clerkship Curriculum
STFM (Society of Teachers of Family Medicine)のプロジェクトとして
表題のカリキュラムが整備されています
The Family Medicine Clerkship Curriculum
通常米国の家庭医療のクラークシップは通常3年目で2ヶ月ぐらいのところがほとんどだと思うので,また米国の医学生と日本の医学生のレベルを考慮すると,日本では卒後2年目にやる地域医療(必修化カリキュラム)の枠組みとして,もしくは3-6ヶ月程度の後期の選択研修,また日本家庭医療学会の診療所6ヶ月の部分のたたき台として有用なのではないでしょうか.
端的によくまとまっています.
リンクはpdfです.
the Executive Summary to the Clerkship Curriculum. (pdf)
the Family Medicine Clerkship Curriculum. (pdf)
鍵となる表を挙げておきます
Table 1 The Principles of Family Medicine
The biopsychosocial model
Comprehensive care
Continuity of care
Contextual care
Coordination/complexity of care
Table 2 Key Characteristics of Family Physicians
Prior knowledge of the patient
Care for a heterogeneous
patient population
Multiple settings with different diagnostic prevalence
Multi-purpose visits
Staged diagnostic approach
Opportunity for follow-up care
Table 3: Core Acute Presentations(省略)
Table 4 Key characteristics of Chronic Disease Management by Family Physicians
Chronic disease management knowledge and skill
Attention to co-morbidities
Continuity context
Relationship with the patient
Patient empowerment and self-management support
Table 5: Core Chronic Disease Presentations (省略)
Table 6 Characteristics of Preventive Care by Family Physicians
Evidence-based
Individualized
Opportunistic
Prioritized
Table 7 Core Health Promotion Conditions for Adults
Breast cancer
Cervical cancer
Colon cancer
Coronary artery disease
Depression
Fall risk in elderly patients
Intimate partner and family violence
Obesity
Osteoporosis
Prostate cancer
Sexually transmitted infection
Substance use/abuse
Type 2 diabetes mellitus
Table 8 Core Health Promotion Conditions for Children/Adolescents
Diet/exercise
Family/social support
Growth and development
Hearing
Lead exposure
Nutritional deficiency
Potential for injury
Sexual activity
Substance use
Tuberculosis
Vision
2010/01/01
私が次の患者さんを呼び入れる際に立ち上がって自ら診察室のドアを開ける8つの理由
自分の診療でずっとこだわってやってきていることのひとつに、自分が立ち上がって診察室と待合室を隔てるドアを開けて待合室の中から次の患者さんを見つけてお呼びする。という行動があります。実は自分の施設でも全員がやっていることではないので、僕の外来についた学生さんや研修医の方はカルチャーショックを受ける人がいます。
1)歩み寄りの気持ち。本来医師が患者さんの自宅や職場へ伺っての診療があるべき姿である(その方が素(す)の状態が見られる)が、様々な制約でそれは難しい,ならば医療機関まで来てくださっている訳なので、せめてもの気持ちとして最後の何歩か、数メートルかは私の方から患者さんのいるところへ歩み寄りたいという少し申し開き的な,言い訳的な。
2)素の姿を見る。患者さんは医師の前で様々な演技をなさいます(意図的でなくても)。待合室ではそうでもないのに放送で呼び出されて診察室に入ってくる段になってからこれ見よがしに辛そうにはいってくる人、逆に通院の長いよく知った医師が忙しそうなのに気を使って、待合室では横になりたいほど辛いのに、全くそういったそぶりを見せずに気丈に振る舞おうとする人。顔の表情もいろいろな意味で作っている方も多いです。こちらがドアを開けて呼べば、患者さんにとっては不意打ちになるが、素の状態を観察することは非常に重要なのです。
3)家族ダイナミクス、家族関係など(同伴者との関係)を見る。たとえ受診は一人だけなのに夫婦で一緒で来られる場合、高齢者の方の足として娘さんや息子さんが一緒に来られる場合、中高生の子どもを親がつれてくる場合など同伴者がいることは多いですが、来ているにもかかわらず、診察室には入ってこない場合が多々あります。診察室のなかから呼び出し放送で呼んでしまっては、この「入ってこない同伴者」の存在があるのかないのか全く見えません。入ってこられないのは、受診者のプライバシーに同伴者が配慮している場合もあれば、同伴者が一緒に入ろうと立ち上がったところを受診者が制して一人で来ようとする場合もあります。またこれまでの別の医師の受診で何らかの良い/悪い体験があってそのような受領行動が形作られている場合などいろいろな理由があると思いますので,無理強いはしませんが、少なくとも同伴者が入ってこようとしない場合「一緒にいかがですか」と提案はするようにしています。ドアを開けて呼び入れたときに受診者と同伴者がとる行動でその二人の関係がどのようなものか少し推し量ることが出来ます。また同伴者が家族とは限りません。友達やそれ以外の大切な人の場合も。これは4)につながります
4)その他の人間関係を見る。これは,意図しなかった効果。地域密着でやっていますので、私の患者さんを呼び入れようと診察室のドアを開けて待合室を覗くと、今呼び入れようとしている患者さんと,それと数人あとの名字の全く違う僕の患者さんがなかよく雑談している風景を良く見ます。これも必ず呼び入れたあとでどういう関係かお尋ねして、出来るだけ診療録に書き留めておくようにしています。「実はお隣/近所なんです(住所を見ると実際そう)」「遠い親戚なんです」「ダンス教室で一緒だったんです」、70代の方同士で「小学校時代の同級生なんです」などなど。以前50台で娘さんがいるはずのない方が若い女性と同伴で(もちろん診察室へは一緒には入ってこない)、おそるおそる関係を尋ねたら,昔その娘がいろいろと警察のお世話になったりした(かなんかそのような)時に、いろいろと面倒を見てあげたとのこと。まあ医師用の説明かもしれませんが。うちの電子カルテには家族図を実現する機能すらありませんが、近所や幼なじみ、趣味友達などまで把握してこそ家庭医の醍醐味。
5)脚力、歩行などを見る。高齢者,リハビリに来ている人、ねんざ、腰痛などの回復などの様子が見られる。2)とつながりますが、名前を呼ばれて、座った状態から立ち上がる所にどのぐらいかかるか、診察室に入ってくるまでの歩き方、どのぐらいビッコを引いているか,無理しているかなど自然に観察することが出来ます。口で「大丈夫」といってても歩き方に出ます。また特に足腰の訴えがなくてもその立ち上がり方や歩き方で虚弱高齢者の転倒リスクを拾い上げて先にリハビリを導入したり、パーキンソンなどの神経疾患を見つけることもあります。
6)患者さんへの忠誠(loyalty)を示す。患者満足度につながる。受診するべき医師が制度によって制約されない日本だからこそ、医師としてはずっと自分のところに通ってきてほしいというのはあるはずです。互恵性(何かしてもらったら返したい.give & take)の法則を考えれば、loyaltyが欲しければまずloyaltyを示す。give & takeはgive先にあることには理由があります。1)に関連しますが、普通はそこまでしてくれるドクターはいないので「私の先生はわざわざ呼びにきてくれる」といった特別扱いされている感を与えます。もちろん自分のところに来てくださる患者さんは特別扱いをします。日本中どの医者へ行っても費用負担は同じなのに自分を選んでくださる訳ですから。耳の聞こえない患者さんにも配慮できます。目が合ったところで手招きするだけ。それから、耳が聞こえる方でも僕の診察室のドアが開くと「次は自分かな?」という具合にこちらを見る方が多いので、目が合ったらそのまま名前を呼ばずに「どうぞ」と招き入れることもあります。これは個人認識の上では多少リスクがあるのですが、大病院ではあり得ない「顔パス」の状態を作り出すことで、最高のVIP待遇が提供できていることになります。また、大病院の外来で仕事している人には特にお勧め。両隣は言うに及ばず同じ列の診察室のどのドクターもやっていない状況なら、本当に特別扱いです。他のドクターを待っている患者さんは羨望の目で。私の患者さんは鼻高々です。
7)その半コマのタイムマネジメントとして。8)につながりますが、その日の予約患者さんがどのくらい既に来て待っているか、新患の患者さんはどんな人か、外来のペースが送れているときに、待ち時間が長くて怒っている人や疲れている人はいないかといったことをさっと確認しています。通常、1時間遅れることはまずないのですが、突発的なことでたくさんの人が既に受付を済ませて待っている状況になったら、患者さんを呼ぶためにドアを開けるとその4−5人(場合によっては7−8人)の既に受付を済ませた患者さんが一斉に「次は自分が呼ばれるのか?」という雰囲気で刺すような視線をくださいます。ですからあまり待ちの人が多い状況になるとその視線が怖くて,放送呼び出しにしてしまいます。つまり、自分の中では予約外来で放送呼び出しをしている時は、その時点でそのコマのタイムマネジメントがうまくいっていない,ということの表れなのです。ですから、いかに放送呼び出しをせずに外来をやり遂げられるか,という自分にとってのプレッシャーとして利用しています。自分の心理状態(余裕があるかないか)を示すバロメータとしても機能しています。「今日も一こま,胸を張って全員直接お迎えできた」というのが自分への勲章。
8)現在は施設の管理者の立場もつとめているので、やはり全体の待ち時間も気にします。現在の施設は診察室が複数あって複数の医師が診療をしていますし、当日飛び込みの患者さんもたくさんいます。その時間帯の待合室がどのぐらい混んでいるか、ぐったりしている人や苦しそうな人,怒っている人などいないか。もちろんこういったあたりは受付、看護師なども気を配ってくれていますが、目が多いにこしたことはありません。
直接診察室の外へ出て待合室を見ながら患者さんを呼び出すことで得られる情報量とメリットは計り知れません。
欠点は時間がほんの少しよけいにかかることです。でも一人30秒程度ですから半日で20人なら10分余分にすぎません。10分余分にかけるだけでここに書いただけのメリットと情報量が得られるのですから、しない理由はありません.
例外は上記の様に、自分に余裕がないときと、初診患者さんです。初診患者さんは顔を知らないので探すのが大変なのと,その分声を張り上げないといけないからです。放送呼び出しです。
米国は既に診察室に患者さんが入っていますし,入るときはノックをしてから入りますから、上記の多くのメリットを放棄しています。そこからは「効率」が得られるのですが....

